「世界一初恋」×「黒子のバスケ」

□第10話「どうしてこんなことが」
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「黒子君の影響力って、すごいですね。」
律が思わずそう呟くと、高野も「そうだな」と同意した。

火神がボディガードを雇ったと教えてくれたのは、事件の直後だった。
しかも黒子だけでなく、律も守ってくれるという。
さらに日本の律の両親にも、探りを入れてみると言うのだ。
その機動力たるや、普通の人間には到底不可能だ。

「黒子の昔のチームメイトで赤司ってのがいて、手を回してくれたんだ。」
火神がそんな風に説明してくれた。
財力も権力もあり、頭のいい男らしい。
その男が黒子のために、手を尽くしてくれているらしい。

「青峰もうるせーし。その他にも黄瀬とか緑間とか紫原とか。黒子には小姑がついてるんだ。」
火神がそんな風にも言っていた。
つまり黒子のために動く人間が、たくさんいるということだ。
この間の氷室だって、元々は火神の友人だそうだが、黒子のことも大事に思っているようだった。

「いいなぁ」
律は思わずそう呟くと、ため息をついた。
日本を出る時、親も友人も全て捨ててしまった律には、そんな頼りになる友人がいない。
しかもまたマンションに籠りがちな日々が続きそうだ。

「黒子君は、襲撃犯と尾行者は別人だったって言ってるみたいだが。」
「でも複数犯なら、当然ですよね」
今日は高野も久しぶりの休日で、2人は部屋でのんびりしていた。
本当は天気がいいので、本当なら散歩にでも出たいところだ。
だがやはり襲撃犯の正体がわからなければ、不用意な外出はできない。

「でもあの襲撃犯は、俺の両親じゃないと思うんです。」
律はもう何度繰り返したかわからない言葉を告げた。
高野は納得いかない表情で「そうかぁ?」と答える。
結局結論が出ないやりとりは、今日もふわっと終わった。

律が襲撃犯は両親ではないと言う根拠は、ただの勘だった。
あのときの犯人は、とにかく手荒だったのだ。
狙いは律だったが、ケガをしてもかまわないという勢いで襲ってきた。
そしてかばってくれようとした黒子は、実際にケガまでしてしまった。
律は自分の両親がこんなやり方をするとは、どうしても思えないのだ。

それは律が両親を善良な人間だと思っているからではない。
律の両親は、良くも悪くも常識人なのだ。
法に触れるようなことをしないとは言わない。
だけど極力、穏便に進めようとするはずなのだ。
人を傷つけるほどの度胸などない。

「まぁ俺たちにできるのは、気をつけることだけだな。」
高野はそう言うと、キッチンに向かった。
コーヒーを淹れるためだ。
2人で好きな本でも読みながら、1日のんびりと過ごすつもりだった。

だがその予定は大きく変わることになった。
ドアチャイムが何度も連打された上、ドアのそとから「すんません!」と声が響いたからだ。
確認しなくても分かる。この声は火神だ。
あまりにも慌てふためいた様子に、高野と律は顔を見合わせた。

「すんません!黒子、来てないすか!?」
火神は声同様、かなり取り乱していた。
高野が「来てないけど」と答え、律が「いないの?」と聞き返す。
火神は「ジムに行くっつって、戻って来なくて」と叫ぶように告げた。

「ボディガードは?何してたの?」
「ずっとエントランスにいたそうだ、です。黒子の姿も見てないし、不審な人物もいないって。」
「そんな」

律の頭の中は「?」でいっぱいだった。
ボディガードも見張ってて、マンション内は安全なはずだった。
そもそも狙われているのは、律だったはずだ。
それなのにどうして、黒子が姿を消してしまったのか?

「とにかく手分けをして捜そう。どこかにいるかもしれない。」
「は、はい!」
「その前に、ボディガードを1人、この部屋に呼んでくれ。律を守ってもらう。」
「わかりました!」

一足先に冷静になった高野が、テキパキと指示をする。
その様子に落ち着きを取り戻した火神が、スマートフォンを取り出した。
ボディガードの1人をエントランスから呼び寄せるためだ。

その後、火神と高野は、黒子を捜し回った。
だが捜せるところは、そんなに多くない。
共有スペースであるジムや敷地内のランニングコースくらいだ。
だがそのどこにも、黒子は見当たらなかった。
携帯電話もつながらない。

「どうしてこんなことが」
高野と火神が部屋に戻ってきて、暗い表情で首を振る。
律はそれを見ながら、呆然と呟いた。

【続く】
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