天狼の彼方
□第21章 奪還
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波しぶきが初夏の太陽に当たりキラキラと輝いていた。
背を丸め、退屈しのぎに柊はぼんやり海を眺めていた。
「お待たせ。」
吉良彬従はやっと戻ってきた。
「全くだ。」
ぶつぶつとぼやきながら、浜辺の砂を踏みしめ歩いた。
「気は済んだか?」
「ああ懐かしかった…華音と来た店はもう一つも残っていないんだな。」
「開業して20年以上経つからね。その間に店はほとんど入れ替わったよ。」
柊と彬従は、天日財閥が経営するアウトレットモールを訪れていた。
「本当に手離していいのか?シュウが初めて手掛けた事業なのに。」
「老朽化も進んでいる。ちょうど良い機会だ。」
靴についた砂を払い落とし、柊は車に乗り込んだ。
彬従は運転手に言い渡し、発進させた。
「そろそろ天日に戻っておいでよ。チビあきもシュウの帰りを待っているんだ。」
「イヤだよ。好きな時に好きな所へ行けなくなる。」
「今までだって、好き勝手にしていたくせに。」
彬従はふっと苦笑いを浮かべた。
「それは総裁補佐役の俺の特権だから。」
走り出した車の窓から流れる景色に目をやり、柊は鼻で嗤った。
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