天狼の彼方

□第21章 奪還
1ページ/12ページ


波しぶきが初夏の太陽に当たりキラキラと輝いていた。

背を丸め、退屈しのぎに柊はぼんやり海を眺めていた。

「お待たせ。」

吉良彬従はやっと戻ってきた。

「全くだ。」

ぶつぶつとぼやきながら、浜辺の砂を踏みしめ歩いた。

「気は済んだか?」

「ああ懐かしかった…華音と来た店はもう一つも残っていないんだな。」

「開業して20年以上経つからね。その間に店はほとんど入れ替わったよ。」



柊と彬従は、天日財閥が経営するアウトレットモールを訪れていた。




「本当に手離していいのか?シュウが初めて手掛けた事業なのに。」

「老朽化も進んでいる。ちょうど良い機会だ。」

靴についた砂を払い落とし、柊は車に乗り込んだ。

彬従は運転手に言い渡し、発進させた。

「そろそろ天日に戻っておいでよ。チビあきもシュウの帰りを待っているんだ。」

「イヤだよ。好きな時に好きな所へ行けなくなる。」

「今までだって、好き勝手にしていたくせに。」

彬従はふっと苦笑いを浮かべた。

「それは総裁補佐役の俺の特権だから。」

走り出した車の窓から流れる景色に目をやり、柊は鼻で嗤った。



*
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ