奥さまは子猫チャン

□第26章 そばにいるから
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三学期が始まりました。とは言っても、高校三年生は自由登校なので、学校に行くことはありません。出席が義務付けられているのは、センター試験翌日の報告会と、卒業式の予行と卒業式当日だけ。すでに進路が決まっている推薦組や附属進学組は暇つぶしに来ているようなものです。

私も杏ちゃんと図書館で時間を潰していたら呼び出しがあり職員室を訪ねました。毛利先生がニコニコと私を手招きしています。

「小笠原、附属の推薦が取れたぞ。野々宮が進学を辞めて、ちょうど空きがあって良かったな。」

「ありがとうございました。これで一安心です!」

「小笠原は真面目だから、どの大学でもやって行けるさ。」

結局、私は附属大学に進むことにしました。麻実ちゃんが結婚のために大学の推薦を辞退して欠員が出たおかげです。女子大だし、それなりに名門大学です。いい加減な勉強をしていたらバシバシ留年させられる恐怖もあるのですが……

「あとは松藤だけだな。」

「友莉が、どうかしましたか?」

「いや、ここ最近の模試の成績が急降下しているんだ。体調不良が原因らしい。あの子はしっかり者だから、センター試験までに持ち直してくれるといいんだが……」

毛利先生も詳しいことは分からないようです。

図書館に戻って杏ちゃんに早速報告すると「良かったあ!」と喜んでくれました。

「友莉や麻美ちゃんにも伝えなきゃ!」

「紗菜子、友莉と連絡は取れている?」

「ううん、全然だよ。」

「堀内さんに聞いたんだけど、友莉、予備校の講習にも来ていないんだって……」

「そんな……!」

真面目な友莉がどうしたんでしょう?

私は田中さんにお願いして、学校帰りに松藤の家に連れて行ってもらいました。

「紗菜子ちゃん、お久しぶり!」

友莉のお母さんが出迎えてくれました。

「こんにちは!友莉はいますか?」

「いいえ?毎日予備校に通っているわ。帰りもいつも11時過ぎなのよ。」

昔モデルだった友莉のお母さんは、美しくてハッキリした目鼻立ちの顔を少し曇らせました。

「友莉が帰ってきたら、話したいことがあるって伝えていただけますか?」

「分かったわ、紗菜子ちゃん、大学は?」

「附属に進学することにしました。」

「そう、今まで一緒だったのに、寂しいわね。いつでも遊びに来てね!」

「ありがとうございます!」

友莉のお母さんにお別れを告げて、田中さんの車で桂のお屋敷に帰りました。

「紗菜子さま、何か心配事でもおありですか?」

浮かない私の表情を読んで、田中さんが心配してくれました。

「田中さん、友莉が変なんです……お母さんには予備校に行ってるって言いながら、本当は行っていないみたいなの。メールも電話も出てくれないんですよ。」

「友莉さまは賢い娘さんです。きっと何か事情がおありなのでしょう。そのうちきっと紗菜子さまを頼っていらっしゃいますよ。」

「はい……今は待つしかないですね……」

田中さんの優しい笑顔がバックミラーに映っていて、なんだかとっても癒されました。



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