奥さまは子猫チャン

□第34章 何年でも
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義臣さんはメガネの奥の切れ長の目を更に細くしてニヤリと笑いました。

「なんだ、愛の告白するのに俺達の付き添いが必要なのか?」

「振られたら、ヨッシーと紗菜子に慰めて貰おうと思ってね。」

「振られる?拓真さんには有り得ませんよ!」

「それが、なかなかに強敵なのさ。なにしろ、金持ちの娘は貧乏人とは結婚しないって言うじゃないか。」

「お前の好きなグレート・ギャツビーのセリフだな。しかし、拓真は貧乏人では無かろう。」

「……ヨッシーのおかげでね。お前の提案で開いたカジュアルレストランは大当たりで、メニューや内装も変更したら、どの店も予約は半年待ちだ……」

「俺の力ではない。拓真の努力と親父さんの腕があってこそだ。」

「フフ、コックの息子って呼ばれるのが嫌で仕方なかったのに、親父のおかげで今の俺があるんだ……」

アーモンド型の大きな瞳を縁取る長いまつげを合わせ、拓真さんは物憂げに呟きました。ホウっと見惚れるほど美しいお顔です。一体どんな人なのでしょう、拓真さんが愛して止まない人って……

「まあ良かろう。長い付き合いだ、お前の失恋に立ち会わせてもらうよ。」

「ヨッシー、俺はまだ振られるとは決まっていないぞ?」

「なんだ、では行くのは止めるか。」

「友達甲斐の無い奴だな。」

拓真さんはアハハと笑いながら義臣さんの肩を抱きました。

「もっと美味しい話をしようか。今度関西に展開する新規の商業ビルに出店してみないか?」

「関西?ウチとしては初だな。」

「ああ、いずれは『リストランテ・トウヤ』を全国展開をしようじゃないか。」

「いいねヨッシー、攻めるのみだ。これから先も俺はお前についていくよ。」

お二人が仕事の話を始めたので、私は失礼して一人夫婦の寝室に戻りました。

友莉はどうしているのかなと客室をのぞきましたが姿はありません……まさかやっぱり信成さんと、なんて考えていたらドキドキして、初めて義臣さんと過ごした夜を思い出してしまいました。

義臣さんは夜更けにお部屋に戻ってきて、ベッドに潜り込んで後ろから私を抱っこしてもぞもぞ撫で回しているうちに寝息を立ててしまいました。

ずいぶんお酒を飲んだのですね。私がいくら悪戯(いたずら)しても起きてくれません。拓真さんに劣らず長いまつ毛は閉じたまま。私は疼くお腹を我慢して義臣さんの胸に潜り込み、やっとの思いで眠りに就いたのです。



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