奥さまは子猫チャン

□第35章 今日からは
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卒業式の日がやって来ました。

附属の幼稚園から小学校・中学・高校、計15年間通ったこの場所から、ついに巣立っていくのです。

田中さんにいつもの場所まで送ってもらいました。登下校の送り迎えも今日でおしまいです。感謝の気持ちをお伝えすると、田中さんは目を潤ませて私の卒業を祝ってくれました。

車を降りるとすっきりと晴れていたもののうっすら寒くて胸元をマフラーで押さえながら校舎に駆け込みました。教室で友達とコサージュを制服の胸元に付け合い、クラスごとに整列して厳かな音楽が流れる講堂に入場しました。

保護者席では私の両親と義臣さん信成さんが見守っています。ちらりと見上げたら、大きな身体の義臣さんはすぐに見つかりました。私の視線に気づき小さく手を振っていらっしゃいました。

式が始まり、校長先生の祝辞、来賓の祝辞、在校生の送辞、卒業生の答辞、つつがなく時間は流れ、そして校長先生から一人一人に卒業証書が授与されます。

私の順番が来て、待機場所を一つ一つ進みます。「小笠原紗菜子」と名前を呼ばれ、壇上に上がり証書をいただきました。

壇を降り、また保護者席を見上げると、母と一緒になって義臣さんがハンカチで目を押さえています。ジーンとして、思わず私も目を潤ませてしまいました。

閉式の辞が述べられ、整然と歩き講堂から退場します。終わってみればあっという間の卒業式でした。

教室に戻り、級友たちといつまでも別れを惜しみました。同級生の八割は附属大学に進学するので、学部学科は違っても、ほとんどの友達とは大学に行っても顔を合わせるのですけどね。

最後のホームルームが終わって『卒業を祝う会』の会場へ移動することになりました。

教室の外では、沢山の後輩たちが待っていました。私も高二までいた茶道部の後輩たちにお花やプレゼントをいただいたり一緒に記念撮影をして別れを惜しみました。友莉はバスケ部や委員会の後輩たちに囲まれ揉みくちゃになっていました。友莉が貰ったお花やプレゼントを手分けして持ったら私の三倍はありましたよ。さすが友莉、凄い人気です。

校舎を出たところで保護者の方々がお待ちになっていました。そこで両親とも記念撮影をしました。義臣さんも待っていてくださったので母にツーショットで写真を撮ってもらいました。義臣さんと制服姿で撮った写真は一生の宝物です。

義臣さんは蕩けるように微笑んで私を見おろしていました。まだ目の縁が濡れています。手を伸ばしてメガネの下から拭うと、義臣さんは照れくさそうに私の手を掴みました。

「良い卒業式だったね。自分の卒業式よりも何十倍も感動した。」

「ウフフ、義臣さんったら感激屋さんなのですね。」

「紗菜子の制服姿も今日で見納めだと思うと、つい涙腺が緩んでしまったのだよ。」

「義臣さん、これからお仕事ですか?」

「ああ、そうだけど?」

「早く帰ってきてくださいね。あの、私……制服を脱がないで待っていますから……」

そう言うと、義臣さんは掴んだ私の手で顔を隠して真っ赤になりました。

「全く、紗菜子は……仕事が手につかなくなりそうだ。」

「この制服を着るのは今日で最後だから、義臣さんが脱がせて……」

背伸びをして耳元で囁き唇を重ねると、義臣さんは嬉しそうにキスを返してくれました。だけどそのまま舌を差しこんできてみんなのいる前なのに延々とディープキスをするのです。もう、義臣さんったら!友達にあとで散々にからかわれてしまいましたよ。



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