業火の果て

□第25章 血の絆
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「ところで俺に何か用?君からだって言うメールや電話が何度も来てたけど。」

「あなたにお願いがあるの。」

柚子葉はぎゅっと拳を握った。

「ミセツさんを傷つけないで。」

「俺は何もしていない。」

「ミセツさんを優介さんや里穂ちゃんに返してあげて!」

「それは俺じゃなくミセツに言うべき問題だ。」

柊は鼻で嗤った。

「このバイクショップは今月いっぱいで閉店する。」

柚子葉は青ざめた。

「収益の回復が見込めない。傷が深くならないうちに辞めさせる。」

「ミセツさんはいいって言ったの?」

「あいつは俺の言いなりだからね。」

ふらふらと歩み寄り、柚子葉は胸を掴んで柊を揺さぶった。

「お願い!ミセツさんをオモチャにしないで!」

「君が俺の言うことを聞いてくれたら、もう手出しはしないよ。」

「……分かったわ。」

柚子葉は目を閉じうなずいた。



柊のバイクでホテルカザバナからほど近い高層マンションに連れて行かれた。

最上階に彼のペントハウスはあった。

陽も落ちて真っ暗になり、街の灯りが夜空の星のように見えた。

「やっと来たね。」

窓辺で柊は柚子葉を後ろから抱き締めた。

「何でも買ってやる。何でもお前の好きにさせてやる。ここで俺を愛してくれないか?」

首筋を柊の舌が這う。

華奢な手が着ていた服を剥がしていく。

全裸の自分が柊に弄ばれる。

窓ガラスに映る姿を柚子葉は儚く見つめた。

軽々と抱き上げられ、ベッドに運ばれた。

身体を重ね、優しくキスを繰り返し、柊は柚子葉が自分を受け入れてくれるのを待った。

「シュウのキス、昔と変わらないね。凄く気持ちいい……」

柚子葉は目を閉じたまま柊の柔らかい髪に指を絡ませた。

「今の私はシュウの好きだった頃の私じゃない。お金のために知らない男といっぱい寝た。食べるために寝るために何でもやった。」

「忘れてしまえ、そんなこと……俺のことだけ考えろ。俺のことだけでいっぱいになれ。」

「シュウ……シュウ……ずっと好きだった。ずっとあなたに抱かれたかった。」

柚子葉は柊の身体を強く抱き締めた。

「なのに、どうしてこんなに悲しいの……」

弄る手を止めず、柊は愛撫を続けた。

「シュウは何故、私が幸せになろうとすると私の前に現れて全て壊していくの……」

無言のまま、柊は柚子葉の中に自分を押し入れた。

激しく突き上げ中で果てると、柚子葉を抱きしめたまま深い眠りについてしまった。



明け方、柚子葉は目を覚ました。

隣りに柊の姿は無かった。

枕元に、この部屋の鍵と柚子葉が唯一連絡の取ることの出来た柊の携帯電話が残されていた。



仕事を早めに切り上げて、彬従は急いで会社を出た。

「アキちゃん!」

制服姿の季従が白い息を吐きながら待っていた。

「遅くなってごめん。」

弟の頬に触れるとひんやりとした。

「くすぐったいよ!」

幼い子供のように季従が笑った。

彬従は馴染みのイタリアンレストランに季従を誘った。

「あらアキちゃん!イケメンのお連れさんね、誰なの?」

オーナーがニコニコと声を掛けた。

「弟ですよ。」

「まあそうなの?あんまり似てないのね。でもスッキリ顔のイケメンね!」

「俺の顔、クドいですか?」

「アキちゃんは目鼻立ちがハッキリしている肉食系イケメンだから!」

オーナーと笑い合い、二人分の料理を注文した。

「今日はどうしたの?」

運ばれてきた料理にフォークを刺しながら彬従が尋ねた。

「忙しいのにごめんね。アキちゃんに相談したいことがあったんだ。」

季従はモジモジと照れた。

「来週までに高校の進路調査票を出さないといけなくてさ。」

「トキももう中二かぁ。早いなぁ!こんなにちっちゃかったのに。」

彬従は赤ん坊を抱く仕草をした。

「そう言うけど、俺の方がもう背が高いんだぜ。」

「マジでそれショックだよ。」

二人はケラケラと笑った。

「俺さ、アキちゃんと同じ洛應高校に行ってもいい?」

「構わないよ。学費は出してやるから。でも詩音と同じ高校じゃなくていいのか?」

手を止め、チラリと季従を見た。

「……辛いんだ。一緒に居るのが……」

「どうしたの?」

「中学に入った頃から、詩音にずっと無視されている。俺はあいつの事が好きで仕方がない。だから、少し離れて暮らしてみようと思うんだ……」

「そうか。洛應は良い高校だ。沢山友達を作って来いよ。一生の宝物になる。」

彬従の言葉に、季従は笑顔でうなずいた。

「ねぇ、もう一つ聞いてもいい?アキちゃんが知ってるかは分からないけど……」

「なんだよ?」

「俺と詩音は……血が繋がってるの?」

ハッとして彬従は弟を凝視した。

「だって……詩音はアキちゃんとそっくりじゃないか……!」

*
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