業火の果て

□第27章 結晶
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「ねぇ、ヒロトか華音ちゃんにユズから連絡は無い?」

「ええ、何も……華音も気にしてます。」

カザバナモーターズが廃業したあと、しばらくして柚子葉は姿を消した。

「私はあの子も傷つけてしまった……」

「ミセツさん、何かあったら相談してください。俺、いつでも逢いに来ますから。」

「嬉しいわ、ヒロトのこと頼りにしてるから……」

はにかむように微笑んで、美雪は祐都を見上げた。

「私、ヒロトにプロポーズされたらすぐにOKしちゃうのに!」

「えっ!」

祐都は真っ赤になって慌てた。

「ミセツさんダメですよ。ヒロトは恋愛スキルが低いからそんなこと言ったら本気にしますよ!」

彬従がからかった。

「本気にしてくれていいのに!」

ケラケラと美雪は笑った。

「なんだ、冗談だったんですか!」

祐都はバクバクとする胸を手で押さえた。

「でも、ヒロトと付き合う子はきっと幸せよね。優しく大事にされて……羨ましいわ。」

切ない表情で、美雪は祐都と彬従を見送った。



帰りの車は彬従が運転した。

「いつまで赤くなってるの。」

「だって、ミセツさんがあんなこと言うなんて思ってなかったんだ。」

「本気かもしれないよ?」

「からかうなよ!つーか、アキだって付き合った女の子の数は少ないじゃん!」

「俺は華音一筋だったの!」

「そう言えば、あの子は?沙良ちゃんだっけ。婚約寸前まで行ったのに……」

「俺と別れてからアメリカに留学したらしい。由良からそう聞いた。」

彬従はそれ以上触れて欲しく無いようだった。



買い物がしたいと言う彬従に付き合って、天日アウトレットモールにやってきた。

「美桜の結婚祝い、悩むなぁ。」

フラフラと雑貨店を歩き回った。

祐都はふとペアのマグカップに目を留めた。

―――瑛さんが好きそうなデザインだ……

「プレゼント?」

「違うよ!」

冷やかされるのが嫌で、祐都は棚にカップを戻した。

決めかねて、彬従は他の店へと移動した。

レディスファッションフロアで、飾ってあったワンピースを手に取った。

「可愛い!華音に似合いそうだ。」

「そうか?似合うけど、着ないんじゃない?」

「……俺が買った服、全部しまってあるよ。」

「休みの日にデートして着せればいいじゃん。」

「疲れきって寝てるから最近どこにも行ってない。部屋で映画を観るくらいかな。」

「じゃあ、こっちがいいんじゃない?」

祐都はシンプルなルームウェアを手に取った。

「いいね!」

彬従は自分と祐都が選んだ服をレジに持って行った。

「アキもある意味マメだよね。華音限定だけど。」

祐都は苦笑した。

「華音は俺のものだから。」

「でも……あんまり束縛するなよ。一番近くにいるからって、華音のことアキが何でも分かってる訳じゃないんだから。」

「意味深だな。華音が何か言ってるのか?」

「いや、そばにいて俺がそう思うだけ……」

足元に目を落とし、祐都は歩き続けた。

追求はせず、彬従もしばらく無言で歩いた。

結局最初の店に戻り、料理好きな美桜が使いそうなカラフルな調理鍋セットを買い求めた。



久しぶりに高塔の屋敷を訪れた。

「わぁ可愛い!アキありがとう!」

結婚祝いを早速広げ、美桜は喜んだ。

「新生活の準備は進んでる?」

「揃え出したらキリが無いの。新しく生活を始めるって大変ね!」

「彼はどう?」

「大成はとっても優しいわよ!でも忙しくてなかなか二人の時間が持てないの。」

それでも美桜は幸せそうに語った。

しばらく話をして、華音の部屋に向かった。

彼女は書類に囲まれパソコンを睨んでいた。

「家に居る時くらい休みなよ。」

彬従は呆れた。

「だって時間が足りないんだもの。」

「俺に任せなさい。」

「アキの負担が大きくなり過ぎる。」

「全然平気だから。」

華音の頬にチュッとキスをした。

「これ着てみて。」

またかと困った顔で紙袋を覗いた華音だったが、袋から取り出し服を広げて喜んだ。

「素敵!こんな服が欲しかったの!ありがとう!」

すぐにルームウェアに着替えた。

「似合う?」

くるりと振り向くと、彬従がどんよりしていた。

「どうしたの?」

「……それヒロトが選んだんだ。」

深いため息を吐いた。

「俺よりヒロトの方が華音のこと分かってるのかな……」

「今のは偶然欲しかった服だったのよ。」

彬従の横に座り、華音は頬に唇を寄せた。

「もう一つも着てみるから。」

彬従が選んだワンピースに着替え、くるりと回ってみせた。

「すげぇ可愛い!」

「これも似合うでしょ。」

華音は微笑みかけた。

「色気の無いスーツばっかり着てないでたまにはお洒落しなよ。」

華音を抱き寄せ、彬従は唇を求めた。

「そうね。」

*
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