業火の果て
□第27章 結晶
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胸を貪る彬従の手をガッと押さえた。
「アキ、ここじゃダメ!」
「エッチしたい。」
彬従は馴れた手つきでワンピースを剥ぎ取った。
「下に美桜と詩音がいるのに!」
華音はじたばたと抵抗した。
「華音が大きい声出さなきゃ分からないよ。」
「無理だから!」
「一週間も俺にお預けさせて、目の前で平気で裸になって、手を出すなってヒドいと思わない?」
「ダメ!ダメ!」
華音は必死に押し退けた。
「そんな顔されると余計に燃える。」
「アキーっ!」
彬従はクスクスと笑いながら、華音をベッドに押し倒した。
五月晴れの青空の下、美桜の結婚式が行われた。
「お腹が目立たないうちで良かったわ。大貴に逢うたびに、息子ができちゃった結婚なんて許せんって言われるのよ。」
茉莉花がムッと眉をしかめた。
「文句を言うのはこちらの方だよ。責任は孕ませた男にもあるんだ。」
恭弥もしかめ面だった。
「美桜に猛アタックしてきたのは大成君よ。」
華音は母達を宥めた。
父親の経営する会社の得意先の娘と婚約していた神崎大成は、パーティーで知り合った美桜に一目惚れした。
結婚式をドタキャンし、美桜と駆け落ちまがいのことをやってのけ、激怒する父親を一蹴し無事に美桜との結婚にこぎ着けた。
「血は争えないのかしら……」
「お母さんっ!」
華音はたしなめた。
美桜の母親も、茉莉花から夫を奪い彼女を産んだのだ。
「だけど、マリが大貴の所にウチの娘を傷モノにする気か!って怒鳴り込んだおかげで結婚出来たんだろ?」
恭弥がクスクスと笑った。
「当たり前よ!大事な娘にケチを付けられて黙っていられる訳無いじゃない!大貴なんか体裁がどうのこうのばっかり言うんだもの!」
珍しく茉莉花が激怒していた。
「年が明ける頃には私もおばあちゃんになるのね……」
「お互い年を取ったもんだ。」
恭弥が笑い掛けると、茉莉花も釣られて笑顔になった。
―――ヒロトと私もこんな風に年を取るのかな……
茉莉花と恭弥は長年連れ添った夫婦のようだ。
華音は笑顔で母達を見つめた。
ヴァージンロードを恭弥と共に美桜は歩いた。
その先で待っていた大成はとろけるような笑顔で美桜を受け取った。
「見た目がアキに似てるよな。」
祐都が小声で隣りに座る彬従に話し掛けた。
「俺はあんなチャラ男じゃない!」
彬従も小声で返事をした。
「貞春さんに聞いたけど、大成って結構女と遊んでたみたいだよ。」
祐都は心配そうに言った。
「美桜を泣かせたら俺がぶっ飛ばす!」
「仲良くしようね、お義兄さん。」
呆れながら祐都は笑った。
式が終わり、幸せいっぱいの新郎新婦を皆が歓迎して出迎えた。
ブーケを美桜は直接華音に手渡した。
「詩音に先を越されちゃダメよ!」
華音と詩音は顔を見合わせ、その後で詩音は季従と笑い合った。
「私達の方が先だったらごめんね!」
「後でも先でも構わない。詩音達も幸せになるのよ!」
華音は自分より背の高くなった詩音の頭を撫でた。
「トキ……もうヤった?」
照れながら彬従がこっそり尋ねた。
「まだだよ。つーか、アキちゃんのせいだから!」
何故か季従に怒られた。
「俺、卒業式の後に今日こそ!って決意して、詩音と家に帰ってきたんだ。」
「あー……」
彬従は思い出した。
「アキちゃんとケンカした華音ちゃんが飛び出してきた所にばったり逢ったんだ。詩音は華音ちゃんを慰めるのに掛かりきりで、俺のこと放置だったよ!」
普段からは想像つかない季従の怒りっぷりだった。
「なのに、アキちゃん達すぐに仲直りしたんだろ?」
「人生は長いんだ。これからチャンスはいくらでもあるから焦るなよ!」
「アキちゃんも早く結婚しなよ。俺は18才になったら結婚する。待てないから!」
意外と頑固な弟に、彬従は思わずうろたえた。
恭弥と茉莉花は並んで子供達を見守っていた。
「今日はありがとう。恭弥にはいつも父親役をお願いしているわね。」
「マリが晃輔と別れてから、俺はいつでもあの子達の父親になる気だった。」
「代役で十分よ。」
茉莉花ははぐらかした。
「晃輔には知らせたの?」
「ええ。きっとどこかで見ているんじゃないかしら、娘の幸せを、美織と一緒に……」
「美織は自分の子を手元で育てたかっただろうな。」
「美桜は私の娘よ。生まれた時から育てていたんだから。」
茉莉花はスッと表情を無くした。
「私は……あの時お母さんにはっきり拒絶すれば良かった。晃輔と美織のことは知っていたんだもの……」
「だけど、あの頃は誰も藍咲さまに反抗は出来なかったさ。」
*