業火の果て

□第27章 結晶
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「この年になって後悔ばかりしている。あの時こうすれば良かった、ああすれば良かったって……」

恭弥は不意に押し黙った。

「俺も後悔ばかりしている。」

「恭ちゃんが?」

茉莉花は恭弥を見つめた。

「東京になんか行かなければ良かった。そうすれば、愛する人を他の奴に奪われずに済んだかもしれない……」

「お母さんは恭ちゃんを一番大事にしていた。誰よりもレベルの高い経験を積ませたいと願っていた。彩乃を結婚相手に選んだのも恭ちゃんの幸せを考えてのことよ。」

「……今更言っても仕方の無いことだ。」

恭弥は目を細め遠くを見つめた。



華音が美桜の友人や親戚の間を挨拶して回る姿を、彬従と祐都は揃って眺めていた。

「改めてみると華音ってホントに美人だよな。ドレス着てるとモデルみたいだ。」

祐都が唸った。

「いかにも仕事出来ます風なスーツ姿もエロいけどね!」

彬従はニヤリとした。

「あのドレスはアキが選んだの?セクシー過ぎない?他の男の目が気になるだろ?」

大きく開いた胸元は豊かな乳房を見せつけ、短いスカートは美しい脚を強調していた。

「いいんだ。あれは俺のために買ったんだから。今夜が楽しみだ。」

「アキってホントにワガママだよね……」

祐都はハーっとため息を吐いた。

二人に気づいた華音が走ってきた。

「そのドレス凄く似合う。綺麗だよ!」

祐都が誉めた。

「ありがとう!でも胸が開きすぎて冷えるのよ。」

照れながら華音は彬従に寄りかかった。

「後で俺が温めてやるよ。」

持っていた華音のストールを巻いてやった。

うっとりと彼を見つめ、背伸びをして華音は彬従の唇を奪った。

その表情はいつもの彼女とは全く違う。

彬従にしか見せない艶めかしいものだった。

「アキちゃん達!披露パーティーに移動するって。」

季従が呼びに来た。

華音と彬従は寄り添い歩き、季従と共に車止めへと向かった。

―――俺の方がアキより華音を分かってるはずだ……

祐都は後ろ姿をぼんやり見守った。

―――だけど、華音が求めているのはいつだってアキなんだ……

「まだ、華音が好きなのか?」

ハッとして横を向くと、父の恭弥が立っていた。

「いや、とっくに終わってるよ……」

「そうか。」

恭弥はふっと笑った。

「なあ祐都、俺がもし母さんと別れて初恋の人と結婚するって言ったらどうする?」

「親子の縁を切る。」

祐都は即答した。

「どんなに好きでも結ばれない運命ってあるんだよ。」

「お前に縁を切られるのはごめんだな。」

「それに父さんに必要なのは母さんだけだよ。例えどんなに父さんが他の人を好きでも……」

「もう一つ、告白してもいいかい?」

湧き上がる想いに恭弥は耐えられなくなった。

「何?」

「お前に弟がいるって言ったら、俺を軽蔑するか?」

「軽蔑する、って言うより驚いたよ、母さんから聞いた時は。」

「えっ!彩乃は知ってるのか?」

青ざめて息子を見上げた。

「うん。でもね、その子が生まれた時、みんなが父親は誰なのか気づいていたのに、父さんだけは分かってなかったんだって。」

祐都は思い出してクスクスと笑った。

「最近になって、自分の子だと知った時の父さんの慌てぶりが面白かったって、母さんは笑っていたよ。」

「そうか……俺のようなバカな男を赦してくれるのは彩乃しかいないな。」

ふっとため息を吐き、恭弥は目を閉じた。

「父さん……母さんは絶対赦してないと思うよ?」

祐都は気の毒そうに呟いた。

「母さんは笑いながら牙を向けるんだ。ちゃんといろいろフォローした方がいいと思う……」

「そうなのか!」

恭弥は愕然とした。

「だけど、弟が生まれて良かったって、俺は思ってる。」

祐都はふわりと微笑んだ。

「前にアキが話していたんだ。12才の誕生日にお母さんに置き去りにされた時、まだ生まれたばかりの弟が必死になって泣き叫んで自分を助けてくれたって……」

恭弥はグッと息を飲んだ。

「俺には父さんと母さんがいる。でもアキにはずっと家族がいなかった。弟が出来て、あいつは独りぼっちじゃなくなった。だから軽蔑なんかしない。むしろ感謝してるよ。」

「祐都……すまない、俺は情けない男だ。」

「俺、どんなにカッコ悪くても父さんのこと大好きだから!」

優しく温かな微笑みは母親譲りのものだ。

「祐都、お前は俺の誇りだよ。」

目を潤ませ、恭弥は祐都の肩を抱いた。



披露パーティーが終わり二次会に誘われたが、祐都は断り独り駅まで商店街を歩いた。

通り過ぎようとした雑貨店のウィンドウに、この前気になったマグカップと同じ物が飾られていた。

祐都は目を奪われ、衝動的に店に飛び込んだ。

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