業火の果て

□第27章 結晶
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「あのペアのマグカップをください!プレゼント用にして、リボンを掛けて!」

包んでもらった商品を手に取り、タクシーを捕まえ乗り込んだ。



ドアを開け、瑛は驚いた。

「どうしたんですか、こんな時間に?」

「あの……これ……瑛さんにプレゼントしようと思って……」

「結婚式の引出物ですか?」

「違いますっ!」

戸惑いながらも、瑛は祐都を部屋に招いた。

「素敵なマグカップですね!」

リボンを解き、カップを持ち上げ、瑛は喜んだ。

「相変わらず食器も揃ってないから嬉しいです。お客さまが来たら使わせてもらいます。」

「ダメです。それは瑛さんと俺用ですから。他の人には使わないでください。」

ただならぬ祐都の様子に瑛は心配した。

「いつものヒロトらしくない。何かありましたか?」

「何もありません……急に瑛さんに逢いたくなっただけです。」

「せっかくだからコーヒーを淹れて来ますね。」

「コーヒーは明日の朝でいい。」

祐都は立ち上がり、瑛の腕を掴んだ。

「今夜……一緒にいてくれますか。」

瑛はハッとした。

「一緒にいてください。」

手を伸ばし、祐都は瑛の頬を撫でた。

身体中の血が沸き立ち熱く火照った。

「瑛さんが……欲しい……」

「いいですよ。」

背伸びをし、瑛は唇を重ねた。

祐都は彼女の足をすくい抱きかかえた。

突然瑛がクスクスと笑った。

「ヒロトがお姫さま抱っこをするとは思いませんでした。」

「ホントに良いんですか?」

「……マグカップのお礼です。」

瑛の額に唇を押し当て、祐都は彼女をベッドに運んだ。



朝になり目を覚まし、祐都はうろたえた。

隣りで眠る瑛を見つめた。

自分の中に隠れていた猛る欲情に恥ずかしさを覚え、同時にそれを受け入れてくれた彼女に愛おしさを感じた。

瑛がふっと目を開けた。

「おはようございます。」

ドキドキと瑛を見つめた。

「おはよう、ヒロト。」

「すみません、突然こんなことをして……」

「いいんです。もう落ち着きましたか?」

「瑛さん、俺、瑛さんがす……」

祐都の口に人差し指を押し付け、瑛は封じた。

「もうここには来ないでください。」

「瑛さん……」

「ヒロト、あなたには私よりも相応しい女の子がいる。」

ベッドを抜け出し衣服を整えた。

「コーヒーを淹れて来ます。」

「俺は……」

「ヒロトは自分が思ってるより女の子達に人気があるんですよ。」

瑛は遮った。

「秘書課の麻美ちゃんや真菜ちゃん達がいつもあなたの話ばかりしてます。ヒロトはそういう若くて美しい子とお付き合いした方がいい。」

背を向けたまま、瑛は台所に消えていった。



彬従はムッと口を曲げた。

社長補佐室の空気がいつになく重苦しい。

「那智物産で打ち合わせして、そのまま直帰します。」

瑛は普段と変わらず、書類とパソコンを鞄に入れ部屋を出て行った。

「何があったんだよ?」

すかさず彬従は尋ねた。

「瑛さんと……エッチした。」

「ついにか!」

「でももう来るなって言われた。」

「何か怒らせるようなことをしたのか?」

「分からないよ……下手だったかも知れないけど、瑛さんは喜んでくれていたし……」

「お前にしたら頑張ったな。」

彬従は優しく微笑んだ。

「俺に相応しい女って誰だよ。」

デスクに祐都は頭を伏せた。

「好きな女じゃダメなのかよ。」

「ヒロト、焦るな。」

彬従は丸くなった祐都の背中をポンポンと叩いた。

「昔いろいろなことがあって瑛は深く傷ついた。その傷を癒せるのはお前しかいないよ。」

「アキ……飲もうよ!」

「俺は飲まないよ。」

「飲まずにいられるかっ!」

ぎゃあぎゃあ言い合ううちに、祐都に普段の明るい笑顔が戻った。

彬従はホッとし、祐都の頭をポンポンと叩いた。



社長室に入ると、華音が出掛けるところだった。

「あれ?どこに行くの?」

「定例社長会よ。だけどお仕事じゃなくて、神崎や那智のおじ様達とお夕食会なの。」

「まだ早くないか?」

「家に帰って着替えてくる。たまにはアキに買ってもらった服でお洒落しようと思って。」

「ダメだよ。」

「なんで?」

「俺のいないところで着ちゃダメ!」

「アキってホントにワガママよね。」

華音は諦めのため息を吐いた。

「ヒロトが飲みたがっていたから、今度三人で行こう。」

「アキが飲みに行くの?珍しい!」

「俺は付き添いなの。あいつの愚痴を聞いてやりたいから。」

「分かった。スケジュールを空けておくわ。」

彬従はグッと華音を抱きしめた。

「俺は好きな女と結ばれて幸せだ。」

微笑み背伸びをして、華音は彬従に唇を合わせた。

*
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