業火の果て

□第27章 結晶
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「お疲れ様でした!」

秘書課の麻美は仕事を終え、本社のビルを出ようとした。

ふと小学校の低学年くらいの男の子がポツンと独り立っているのに気づいた。

男の子はビルから人が出てくるたび、じっとその顔を確かめていた。

そして麻美と目を合わせた。

男の子の顔を見た途端、麻美は社長補佐室に駆け戻った。

「どうしたの、忘れ物?」

彬従が尋ねた。

麻美は青ざめ、ガタガタと震えていた。

「何かあった?」

祐都も心配して立ち上がった。

「アキさん一緒に来てください。」

彬従は痛いほど麻美に腕を掴まれた。

「エントランスに小学生くらいの男の子がいるんです。」

「男の子?」

「アキさんに……ソックリなんです!」

麻美は彬従の腕にしがみついたまま泣き出した。



彬従は急いでエントランスに向かった。

夕闇が迫り、外はもう暗くなっていた。

「あそこです。」

麻美が指差した先に男の子が立っていた。

祐都が先に行こうとした。

「待って、俺が行く。」

「だけど!」

祐都の顔が青ざめていた。

彬従は微笑みながら祐都を制した。

彬従がドアを出ると、男の子はまたパッと目を向けた。

不安そうだった表情が突然明るく輝いた。

彬従は震えた。

しかし、グッと感情を殺し、男の子に近づいた。

「驚いた。俺にソックリの子が居るって言うから来てみたら、ホントに瓜二つだ!」

彬従は笑いかけた。

男の子も釣られて笑顔になった。

―――可愛いな……

彬従はしゃがんで男の子を見上げた。

「俺の名前は吉良彬従。君は?」

「ぼくは、てんにちあきつぐです。」

「俺と同じあきつぐなんだ。」

「お母さんがつけました。」

「お母さんは沙良?」

「はい。」

あきつぐは急に涙ぐみ、しゃくりあげた。

「お父さん……!」

小さな身体を彬従はぎゅっと抱きしめた。

「大丈夫。泣かなくて大丈夫だよ。」

小さな子供なのに、何故かひんやりとした。

―――ああ、沙良の体温と同じだ。

彬従は胸の痛みを覚えた。

祐都と麻美は無言で彬従達を見守った。

「お父さん。」

あきつぐは必死で涙を堪えた。

「お母さんを助けてください!」

それだけ言うと、彬従の胸でまた泣きじゃくった。

「分かった。心配するな。大丈夫だよ。」

―――何故……今更、何故……!

安心しきったあきつぐは、父に身体を投げ出し泣き続けた。

彬従は息子の身体を優しく抱きしめ、遠くを見つめた。



☆NEXT☆ 第28章 純真
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