業火の果て
□第28章 純真
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「だけど、良くパパの住んでいる場所が分かったな。」
「瑠璃ちゃんが教えてくれたよ!パパは優しいから、ぼくが頼めばきっとママを助けてくれるって。だから独りでパパの所に行っておいでって。」
「瑠璃さまが……そうだったのか。」
あきつぐに気づかれないように柊は息を吐いた。
「パパは凄く優しかったよ。いっぱい遊んでくれた。華音ちゃんも優しくてキレイだったよ。ホットケーキ美味しかった!」
嬉しそうに笑顔を弾けさせた。
―――お前の純真な願いが、父親の人生をめちゃくちゃにしたと、いつか知ることになるんだろうな……
柊は目を細め、あきつぐを見つめた。
「俺もパパに逢いたい。今どこ?」
「応接間だよ!」
柊はあきつぐを抱かえ、彼の父親の元に向かった。
応接間のドアを開ける前から、キャアキャアと賑やかな笑い声が響いていた。
「相変わらずお前がいるとうるさいな。」
「シュウ!ここにいたのか!」
「住んでいるのは別の家だけどね。チビあきがいなくなったって言うから戻ってきたんだ。」
彬従は立ち上がり、柊の手から息子を奪った。
「俺の子だから!」
「ヤキモチ妬くなよ。」
柊は呆れた。
「ぼくも写真見る!」
「一緒に見よう。お前すげぇ可愛いよ!」
彬従はすりすりと息子に頬ずりした。
あきつぐはちょこんと父親の膝の上に乗り、写真を見て喜ぶ父親と一緒に嬉しそうにはしゃいだ。
「どうしてパパの写真は無いの?」
無邪気にあきつぐは尋ねた。
一瞬、皆が黙り込んだ。
「パパはお仕事が忙しかったから、アメリカにはいけなかったんだよ。」
柊が手助けした。
「パパと撮りたい!」
「私が撮りましょう。」
葵がいそいそとカメラを持ってきた。
最初に全員で撮影し、後から父と息子のツーショットを撮った。
「そろそろ帰るよ。」
彬従はぎゅっと息子を抱きしめた。
「また来て!絶対来て!」
「分かった。ちゃんと由良や葵の言うことを聞くんだぞ。」
「うん!」
約束に気を良くし、あきつぐはうなずいた。
「ついでに俺も送ってよ。車だろ?」
「つーか、お前も相変わらずだな!連絡先くらい教えろよ!」
「持っていた携帯は全部解約したんだ。後で新しい奴を教えるよ。」
疑わしそうに彬従は口を曲げた。
「アキ……また来て。沙良の面会が出来るようになったら、一度でいいから逢ってやって。」
「ああ……」
彬従は目を伏せた。
「パパ、絶対にまた来てね!」
由良に抱かれながら、あきつぐは涙ぐみ手を振った。
「絶対に来るよ。」
息子の頬にキスをして、彬従は車に乗り込み走り去った。
「……運転代わるよ。」
屋敷が見えなくなるとすぐ、柊は彬従の肩を叩いた。
「悪い……頼む。」
「バカだなお前は。なんで来たんだよ。チビあきのことなんか突き帰せば良かったんだ……」
「そんなこと……出来るかよ……」
助手席に代わると、彬従はうずくまった。
「あきつぐを泣かせたくない……」
「チビあきは本当に好い子だ。そしてとてつもなく優秀だ。分析力、判断力、そして行動力……あのあどけなさに騙されない方がいい。」
ハンドルを操る柊を彬従は呆然と見つめた。
「顔立ちも頭脳の優秀さもそうだが、人を虜にする性格の良さもお前譲りだ。高塔家が吉良の血を継承したがる理由が分かるよ。」
「シュウ……俺はどうすればいい?」
「沙良には逢うな、絶対に。」
柊はまっすぐ前を向いたままそう言い放った。
「お前の脆さはお前が一番分かっているだろ?」
高速道路に入り、柊はスピードを出し、逃げるように車を飛ばした。
結局、柊に自宅まで送り届けてもらった。
「家に寄っていくか?」
彬従は誘った。
「いや辞めておく。華音に逢わせる顔が無い。」
「もう昔のことだよ……」
「時が経てば赦されることなのか。」
柊はふと嗤った。
「いつでも連絡くれよ。」
「ああ……」
柊は歩き出したが、突然足を止めた。
「俺は今……瑠璃さまの愛人なんだ。」
彬従は驚いた。
「そして天日財閥の総裁の座に就いている。」
「シュウが?」
「アキは天日に巻き込まれるな。お前のようなお人好しがまともに生きていける場所じゃない。」
苦しげに顔を歪めて笑顔を作り、柊は立ち去った。
玄関を開けると華音が立っていた。
「おかえりアキ。」
「どうしたの?こんなに早い時間に家に居るなんて。」
「ヒロトが心配して早く帰ってアキを出迎えろってきかないのよ。」
華音は微笑んだ。
「あいつにまた迷惑掛けたな。」
携帯電話には祐都からの着信履歴やメールが沢山届いていた。
彬従は考え、「心配させてごめん。明日詳しく話す」とだけ返信した。
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