業火の果て
□第28章 純真
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「チビあきの写真をもらったよ。見る?」
「見たいっ!」
赤ん坊の頃の写真を次々と見て、華音は「可愛いっ!」を連発した。
父と子で撮った写真はリビングに飾った。
「ここまでシュウに送ってもらったんだ……途中で事故を起こしそうだったから助かったよ。」
「シュウが?……元気だった?」
「ああ、全然変わりない。」
華音は複雑な顔をした。
「シュウともう10年くらいまともに逢っていなかったんだな……いろいろあったのに、あいつの顔を見たら嬉しい気持ちが一番強かった。」
元気無くうなだれる彬従を華音はぎゅっと抱きしめた。
「アキ……お風呂に入ろう!」
「えっ?」
驚く彬従の服を剥ぎ取り、華音はバスルームに連れて行った。
「どうしたの?」
「アキじゃない匂いがしてイヤ……」
キスをしながら石けんで彼の身体をゴシゴシ洗った。
いつもなら肌が触れただけで猛る彼の身体は萎えたままだった。
「ごめん……疲れてるのかな。」
「いいの。一晩中抱っこしてあげる。」
柔らかく豊かな胸に彬従を押し込めるように抱きしめた。
タオルで身体を拭き、パジャマを着せた。
彬従はぼんやりとされるがままだった。
まだ早い時間だったが、ベッドに連れて行き添い寝すると、彬従は華音の胸に埋もれてすやすやと寝息を立てた。
「アキ……もうどこにも行かないで。」
眠る彬従に唇を重ね、華音は静かに涙を流した。
翌日、通常通り出勤した。
祐都のピリピリとした緊張が伝わってきた。
「昨日はどうだった?」
「由良にあきつぐを頼んできた。みんなに愛されて幸せな子だよ。」
祐都は心配そうに眉を寄せた。
「アキ、もう二度と天日の家に近づいてはいけません。」
いつになく瑛の口調が厳しかった。
「きっと瑠璃さまの策略です。」
畳み掛けるように続けた。
「あの方はアキを天日財閥に入れようと求めていた。そのためには娘だろうが孫だろうが利用する方なのです。」
「大丈夫。もう逢いには行かないよ……」
うなだれる彬従を見て、祐都も瑛も心を痛めた。
何も考えまいと仕事に集中した。
新規の案件も順調に進んでいた。
しかし、毎晩のように抱き合った彬従が、求めて来なくなった。
華音は彼を抱きしめたまま眠れない夜を過ごした。
「私が嫌いになった?」
胸に顔を埋め、華音は尋ねた。
「まさか。今でもお前が欲しいんだ。なのに身体が反応しない……」
「キスしてもいい?」
「華音の好きなようにしていいよ。」
彬従は大きな手で華音の頭を撫でた。
唇を重ね、舌を絡めた。
彬従の鼓動が早くなる。
触れる指先に力が入る。
華音はシャツを広げ舌を這わせた。
「俺は欲望のままに沙良を抱いたことを後悔している……」
手で顔を隠し、彬従は呟くように言った。
「沙良を好きだと思うことはあった。だけど華音を抱けない不満を沙良にぶつけていたのは本当なんだ……」
華音は答えずに下着をずらし彼の身体を口に挿れ舌で刺激した。
徐々に血が集まり堅くなっていく。
「何も考えないで……私を感じて……」
華音は上に跨がり彬従を自分に押し込んだ。
「アキ、後悔なんかしなくていい。私だけを求めればいい。」
腰を振ると快楽のうねりが華音を捕らえた。
何度も押し寄せる絶頂に華音は淫らに揺れた。
「華音……華音が欲しい。もっと、もっと。」
彬従は我を忘れて激しく突き上げた。
覆い被さったまま中で果て、華音を離すまいと固く抱きしめた。
「……俺の想いがお前の奥で実を結べばいいのに……」
「もし私がアキの子供を産んだら、やっぱりアキに似ているのかな。」
華音はクスクスと笑った。
「きっとそうだよ。優しい好い子になるよ。」
彬従も嬉しそうに笑った。
久しぶりに見る彼の笑顔だった。
―――アキは渡さない。誰にも……
華音は彬従を押し倒し、唇を重ね彼の欲情を誘った。
あきつぐからは毎日メールが届いた。
学校であったこと、友達のこと、由良や葵や茜のこと、時々柊のことが話題に上った。
寝る前にそれを眺めて彬従はホッとため息を吐いた。
沙良の病状に変化は無かった。
―――このまま何も起きなければいいのに……
暗い気持ちで目を閉じると、華音が唇を重ねてきた。
「アキ、私のことだけ考えて……」
煽るように激しく悶え刺激した。
彼女の与える悦楽に彬従はますます溺れていった。
あきつぐは時折週末に泊まりがけで遊びに来た。
三人で本当の親子のように時を過ごした。
華音にまとわりつき小さなあきつぐはキスをねだった。
「チビあきはパパに似てキス魔なのね!」
華音は笑ってムギュッと抱きしめた。
「ぼく、華音ちゃんが大好き!」
彼は真剣だった。
*