業火の果て

□第28章 純真
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「私もチビあきが大好き!」

華音にキスを返され、あきつぐは赤く頬を染めた。

―――あなたが私の子供だったら……

胸の中でぐっすりと眠る小さなあきつぐを、華音は抱きしめ涙した。



会議を終え社長補佐室に戻ると、秘書の麻美が青ざめ待っていた。

「アキさん、息子さんがまたいらっしゃってます。」

その日は、華音も祐都も瑛までも、外出していて不在だった。

彬従は息子の待つ応接室に向かった。

あきつぐと、彼の祖母である瑠璃が待っていた。

「瑠璃さま、お久しぶりです。」

彬従は思わず深々と頭を下げた。

「アキこそ、変わりが無くて良かったわ。」

若々しく華やかな笑顔に、彬従は圧倒された。

「パパ!ママが面会出来るようになったの!一緒に逢いに行こう!」

あきつぐは嬉しそうに父親に飛びついた。

身体の中の血が全て抜けるような、恐ろしいほどの寒けに彬従は襲われた。

「今からですか?」

「そうよ。だからお迎えに来たの。」

瑠璃はニコリと微笑んだ。

「いらっしゃい、彬従。」

彬従の肩をぎゅっと掴み、瑠璃は応接室を後にした。



大きな病院の特別室に、沙良は横たわっていた。

以前の華やかな面影は失われ、げっそりとやせ細っていた。

「ママ!パパが来てくれたよ!」

あきつぐが嬉しそうに母親のベッドに上がり込んだ。

「沙良……」

彬従が声を掛けると、沙良は驚いたように目を見開いた。

「アキ……逢いたかった……!」

泣きながら崩れ落ちる沙良をとっさに抱きしめた。

「どこへも行かないで……私のそばにいて……」

沙良の涙がスーツを濡らした。

彬従は無言のまま、沙良を抱きしめることしか出来なかった。



☆NEXT☆ 第29章 願い
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