業火の果て
□第32章 果てなき焦土
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「ヒロト、お願いだから俺の話を聞いて。」
彬従は懇願した。
「嫌だ!絶対に嫌だっ!」
祐都は断固拒絶した。
「アキなんか絶交だ!もう友達じゃない!二度と口をきかない!」
「お前ら、小学生みたいなケンカしてるなよ!」
貞春は呆れた。
「つーか、アキ!俺もお前を許さない!これ以上俺の仕事を増やすんじゃねぇ!」
「貞春さん、突っ込む所違うだろ!」
祐都はまた激怒した。
退社を決めた彬従の受け持ちの仕事を引き継ぐため、祐都と貞春、藤城智也、長谷川凉が社長補佐室に集まっていた。
「だけど凄いな。俺達四人でも分担しきれない量をアキが一人で担当していたなんて……」
智也が驚きを漏らした。
「……瑠璃さまがどんな手段を使ってもあなたを手に入れようとする理由が分かります。」
吐息と共に凉が呟いた。
「来年の春には安藤が今の法律事務所から高塔の法務部へ移ってくる。あいつは対企業戦略の専門家なんだ。」
「何人頭数を揃えたって、お前の代わりにはならないんだぞ!」
貞春は憮然とした。
「アキは絶対華音しか愛せない。沙良をお前のお母さんと同じ目にあわせるだけだ!」
祐都がまた唸った。
「そんなことは無いさ……」
彬従はふと目を閉じた。
「華音を頼む。ヒロトにしか任せられない。」
「お前の彼女なんだからお前が守ってやれよ!」
「頼むよ……」
彬従はじっと祐都を見つめた。
「お前を信じていた俺がバカだった。華音は俺が守る。二度とあいつを泣かせるな!」
祐都は猛然と部屋を出て行った。
「いっときの感情で、一生を決めていいのか?」
貞春は静かに問い掛けた。
「もう決めたんだ。」
「戻って来いよ、気が済んだら。アキの居場所はここなんだ。」
貞春の説得を、彬従は目を伏せて打ち消した。
社長室を訪ねると、華音がぼんやり窓の外を眺めていた。
祐都に気づくと、すっと力無く微笑んだ。
「引き継ぎは進んでる?」
「引き継ぎなんかしない。アキが続けて行けばいいんだ。」
「どんなに私達が足掻いても、アキの意志は変わらないわ……」
ふらふらと歩き、華音はデスクに着いた。
「ねぇ、なぜアキはいつも私達に何の相談も無く自分の将来を決めてしまうのかな……」
華音の目から涙が零れ落ちた。
「私達はいつもアキに従うだけ……」
「アキのことなんか忘れなよ。」
祐都は華音に寄り添った。
「泣かなくてもいい。辛かったら俺に寄り掛かればいい。」
頬に流れる涙を祐都は手のひらに受け止めた。
「俺が華音を支えてやる。一生お前のそばにいる。」
「ヒロト……」
華音は立ち上がり、祐都の胸にしがみついた。
「ありがとう……いつもヒロトが一番私を分かってくれる……」
押し殺した声で初めて祐都の中で泣きじゃくった。
「失礼します。ヒロトはいますか……」
瑛がドアを開けた。
華音を抱きしめる祐都を目にして、無言のままドアを閉めた。
「瑛!」
祐都の呼び掛けは届かなかった。
「瑛さん誤解してる!」
慌てて華音は祐都を部屋から追い立てた。
会長室で茉莉花と恭弥が沈痛な面持ちで彬従の挨拶を受けていた。
「お世話になりました。」
彬従は深々と頭を下げた。
「何てバカなことをするんだ!」
恭弥は祐都と同じように激怒した。
「あなたを外に出すんじゃなかった。」
茉莉花はうずくまるように頭を抱えた。
「こんなことなら華音との結婚を許せば良かった。あの子をあんなに傷つけずに済んだのに……」
「どんな道を選んでも、後悔する事に変わりはありませんよ。」
淡々と彬従は答えた。
「あなたは本当に頑固だわ。昔から少しも変わらない。」
「父さんと母さんに似たんですよ。」
茉莉花と恭弥は揃って深いため息を吐いた。
逃げる瑛を祐都は追いかけた。
「待って!」
やっとのことで腕を捕まえた。
「華音とは何でもない!泣いていたから慰めていただけだ!」
青ざめた顔で瑛は振り向いた。
「ヒロトはまだ華音さんが好きなんです。」
「違うよ!」
瑛は悲しげにうつむいた。
「私もアキと一緒に天日家に戻ります。葵から瑠璃さまにお願いしてもらいます。」
「ダメだ!」
「アキは恩人です。独りで行かせられません!」
なぎ払うように祐都の腕を振り解いた。
「華音さんと幸せになってください。」
「瑛……」
うつむき歩き去る瑛を、祐都は呆然と見送った。
「俺とは絶交するんじゃなかったのか?」
彬従は嫌みを言った。
「俺は引っ越しの準備で忙しいんだ。やけ酒するなら他でやれよ!」
彬従のマンションで祐都は煽るように酒の入ったグラスを空けた。
「アキのせいだぞ!」
「華音を抱く祐都が悪い!」
「泣いてたら慰めるだろ!」
*