業火の果て

□第32章 果てなき焦土
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再びドッと酒を注ぎ、祐都は一気に飲み干した。

「ここでグダグダしてないで、瑛に謝って来いよ。」

呆れた彬従は祐都の肩を叩いた。

「……瑛はアキが好きなのかな……」

「それは無いだろ。」

「でも、プロポーズしてもOKしてくれないんだ。」

ふーっと深いため息を祐都は吐いた。

「分かった。瑛の家に行こう。」

彬従は祐都の襟を掴んだ。

「ちょっと待て!心の準備が……!」

「いいから来い!」

酔いが回ってボロボロの祐都を車に乗せ、彬従は瑛のマンションに向かった。



ドアを開けた瑛は無言で顔をこわばらせた。

「瑛、話を聞いて。」

祐都は必死だった。

「俺が好きなのは瑛だけだ!」

「私はあなたに相応しくありませんよ。」

「年上だとか昔いろいろあったとか、俺には関係無い!」

突然大声を出した。

「行かないで!俺と一生一緒にいて!俺には瑛が一番大切なんだ!」

「ヒロト……」

瑛はやっと笑顔を見せた。

「ヒロトを頼むよ。こんな奴だけど。」

彬従がフラフラの祐都を瑛に手渡した。

「いいんですか、私で……」

「何度…も言…って…るじゃん…瑛が大好き…だ…って……」

力尽きた祐都は、瑛の胸に崩れ落ちた。

眠り込んだ祐都の重たい身体を引きずって、やっとのことでベッドに寝かせた。

「ねぇ瑛、俺のためを想うなら高塔に残ってよ。」

彬従はニコリと微笑みかけた。

「俺の心残りは華音と祐都のことだから……お願いだから瑛が二人を守ってやって。」

「アキ……私には分かっています。なぜあなたが天日に行くのか……手遅れになる前に私が気づけば良かったのです。」

「それは華音にも祐都にも言わないで……きっと悲しむから……他の手段が考えられない俺が未熟なんだ……」

「アキ!」

瑛は涙を流した。

「……長谷川凉には気をつけて。」

「分かっています。どんなに心を許しても、凉も私も天日の人間だった事は変えられない。」

ふと悔しそうに瑛は眉を寄せた。

「それから祐都と結婚して、温かい家庭を作って、恭弥おじさんと彩乃おばさんに可愛い孫を抱かせてやって。」

「アキを独り地獄に行かせて、私だけ幸せになれません。」

「俺は大丈夫。きっと何とかなるさ!」

彬従は快活な笑顔を見せて、瑛を安心させた。



そのまま車を飛ばし、高塔の屋敷に向かった。

呼び鈴を鳴らすと詩音が出てきた。

「華音ちゃんは逢いたくないって……」

「それでもいい。中に入れて。」

彬従は華音の部屋に向かった。

「華音……」

呼び掛けてもドアは開くことは無かった。

「華音、開けて。」

「アキは自分勝手だわ。」

ドア越しに華音の声が聞こえた。

「私の気持ちなんか少しも考えてくれない。いつだってアキの思い通りに押し付けるだけ。もうウンザリよ!」

「俺、12月28日の朝に行くよ。そのまま向こうで暮らすから。」

「……アキの誕生日もお祝いさせてくれないの?」

「チビあきがケーキを焼いて祝ってくれるそうだ。正月は天日一族の新年会があるからね。」

彬従はドアノブに手を掛けたが、鍵は掛けられたままだった。

「俺のマンションは売らないでそのままにしておく。華音が好きに使ってよ。荷物もそのままにしてあるから。」

「アキを思い出す物なんか全部捨てていい。」

「ドアを開けて。」

「嫌よ。」

「もう逢えないんだ……さよならくらい顔を見て言わせて。」

「帰って!」

彬従はため息を吐き、背を向けた。



階段の下で心配そうな詩音が待っていた。

「頑固だなぁ、相変わらず。」

彬従は笑いかけた。

「華音ちゃんは後悔しているのよ。アキを引き留められなかったこと……」

一筋涙を流した。

「華音とトキを頼むよ、詩音。」

「任せて。高塔の血も吉良の血も私とトキが引き継ぐ。」

詩音は強い眼差しで彬従を見据えた。

「だから好きに生きて。でもまたここに帰ってきてよ、アキ兄さん。」

大きな手で詩音の頭を掴み、彬従はぐしゃぐしゃと撫で回した。



リビングには柚子葉と蓮、そして美雪がいた。

「天日家に行くって本当なの?」

柚子葉はもう泣いていた。

「本当だよ。だから華音のことを頼む。」

「なんてバカなことをするの!」

柚子葉の腕に抱かれていた蓮が「あー!」とせがんで下に降りた。

彬従目指してヨロヨロと歩き出した。

「凄いな、一人で歩けるんだ!」

たどり着いた蓮を抱き上げ、彬従は頬ずりした。

「俺、チビあきの親父になりに行くよ。」

「両親が揃ってなくても子供は育つわ。」

「ユズは一人で頑張り過ぎだから!」

「私はね、蓮を独りで育ててると思ってない。」

ふわりと柚子葉は笑った。

「私は人に恵まれているの。両親が亡くなって、親戚の家に預けられたけど居辛くなって逃げ出した。」

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