業火の果て
□第32章 果てなき焦土
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「この写真、俺にくれよ。」
「写真なら自分で撮って来い。ユズ達は今、華音の家に住んでるから。」
「華音と逢うのは気まずいなぁ。」
「もう手を出すなよ!」
「出さないよ。こんなに可愛い妻と子供がいるのに……」
携帯の画像に柊は見惚れた。
「逢いに行きなよ。俺からのクリスマスプレゼントだってユズに伝えて。」
「最高のプレゼントになるな。」
「……ユズは身体を壊している。出産後無理して働き過ぎてボロボロになったんだ……だからお前があの子を守ってやって。」
「ありがとう、アキ……」
歩き出した柊はふと立ち止まった。
「ベビーシッターでも何でもやってやる。だから俺をここに呼び戻せ。お前の部下でいい。絶対にだ!」
柊は大きく息を吸い、それをゆっくり吐き出した。
「アキを独りにはしない。俺が一緒に戦ってやる。お前を支えてやる!」
「シュウが友達で良かったよ……」
「ああ、アキは友達だ。俺のたった一人の親友だ。」
少年のような笑顔を見せ、柊はコートを掴むと部屋を飛び出した。
出発を明日に控え、部屋の荷物は全て片付いた。
残る華音の物を見つめ、彬従はため息を吐いた。
クローゼットには、彬従がプレゼントしたものの、一度も手を通されることの無かった服が幾つもある。
―――俺は華音を全然理解していないのか……
一枚一枚手に取って、ダンボール箱に詰め込んでいった。
ピンポーンと呼び鈴がなった。
モニターを見て、ふっと微笑んだ。
「合い鍵はどうしたの?」
「頭に来て捨てちゃった。」
「華音らしいな。」
ドアを開け、華音を部屋に入れた。
「ユズからの伝言よ。素敵なクリスマスプレゼントをありがとうって。」
「喜んでもらえて何よりだ。」
彬従はフフッと笑った。
「シュウはどう?」
「ウチに来るなりメロメロになってた。あんなシュウを初めて見たわ。それにね、蓮がシュウを見た途端嬉しそうに笑ったの。まるでパパだって分かるみたいに!」
可笑しそうに華音はケラケラと笑った。
「私の荷物を片付けるね……」
「言われた通り全部捨てるよ。」
「ダメよ。」
彬従が詰め込んだワンピースを懐かしそうに取り出した。
「ごめんね、せっかく買ってくれたのに一度も着なくて……」
「華音の欲しい物、俺は分かって無かったんだな。」
「アキ……私達は近くに居すぎた……」
華音はワンピースを抱きしめうずくまった。
その後ろから覆い被さり、彬従は華音の胸を弄った。
「明日からはアキの腕の中には私じゃなくて沙良がいるのね……」
彬従の手をぎゅっと抑えた。
「華音も、俺のこと何も分かっていない!」
「何が分かっていないのよ!」
「俺はチビあきの親父になりに行くんだ。沙良の夫になる訳じゃない。」
「バカなことを言わないで!アキのワガママは通じないわ!」
スッと離れ、彬従は鞄から一通の封筒を取り出して華音に差し出した。
「これは何?」
中の書類を広げると、病院の紹介状だった。
「県立の総合病院の産婦人科に、俺の大学時代の同級生だった大神雄太って奴がいる。そいつを訪ねて欲しい。」
華音は目を見開いた。
「ユウタの研究室で俺の精子を冷凍保存してもらっている。あいつの所で不妊治療を受けて俺の子供を産んで欲しい。」
「アキは……どこまで残酷なの……」
華音はガクリと崩れ落ちた。
「私に父親のいない子供を産んで育てろって言うの……!」
「お願いだ、ユウタに逢ってくれ。」
「嫌よっ!」
抱きしめようとした彬従を振り払い、華音は両手で彼を殴りつけた。
「アキのバカっ!子供なんかいらないっ!」
華音は泣き喚いた。
「バカっ!バカっ!アキがいなければ私は生きていけないっ!」
殴られるままに彬従は目を閉じ、華音を腕に囲い込んだ。
「最近みんなにバカだって言われるけど、華音に言われるのが一番キツいな。」
華音はハッと見上げた。
ふわりと笑みを浮かべ、彬従が見つめていた。
「俺はバカだ……華音のいない人生を一瞬でも選んでしまったなんて。俺は本当に大バカやろうだ……」
「アキ……!」
彬従の胸にすがりつき、華音は泣きじゃくった。
「アキ……行かないで……行かないで……私のそばにいて……!」
彬従は固く抱きしめた。
「後戻りは出来ない、お前のそばにいてやれない……だからせめて俺の子供を代わりにお前のそばにいさせて……」
彬従はうなだれた。
「どうしてそんなに子供が欲しいの?」
「証……かな。俺が華音を愛している確かな証拠……」
大きな手で華音の頬を撫で、彬従は泣きそうな笑顔を浮かべた。
「俺の夢は、華音と温かい家庭を作ることだった。俺達が子供の頃、手に入れられなかった家庭を……」
「嫌よ……アキがいなきゃ嫌よ!」
*