業火の果て

□第32章 果てなき焦土
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「チビあきに初めて逢った時、お母さんを助けてって言われて子供の頃を思い出した……」

虚ろな表情を彬従は浮かべた。

「俺も母さんを助けたかった……父さんに訴えたかった。だから、チビあきを助けてやりたかった……」

子供のような頼りなげな眼差しを華音は向けた。

「私が子供を産んで、その子が大きくなってアキにお母さんを助けてって頼みに行ったら、アキは私の元に帰ってくるの?」

華音の言葉に彬従は目を見開き、そして嬉しそうに笑みを溢れさせた。

「ああ絶対に。何もかも捨てて華音の元に帰るよ。」

唇を重ね、華音を何度も愛撫した。

「私、赤ちゃんを産むわ。アキを取り返すためなら何でもやる。どんなに人を裏切っても……どんなに人を傷つけても……」

華音の身体を担ぎ上げ、彬従はベッドに運んだ。

服を剥ぎ取り、身体中に唇を這わせた。

「アキ……行かないで……アキじゃなきゃダメ……」

華音は泣きながら喘いだ。

「迎えに来なよ俺を。沙良から奪い返せよ俺を。」

濡れた彼女の中に押し込んで、激しく身体を突き上げた。

「アキっ!アキっ!……壊れるっ!」

華音は彬従の背中に爪を立て、狂ったように喘ぎ悶えた。

「壊れろよ……俺だけ欲しがれよ……俺だけのものになれよ、華音!」

「アキを愛している。アキが私の全てよ……」

甘い囁きが身体の芯を溶かす。

「俺は華音のものだから……今までも、これからも、ずっと!」

何度この言葉を口にしたのだろう……

彬従は己の愚かさを恨み、繋がった華音の体温を失いたくないと心から願った。



季節は廻った。

以前訪れた時、この場所には満開の桜が咲き乱れ、花吹雪が舞っていた。

その時は気後れして逃げ帰った。

今、目の前には真っ赤な紅葉が道を埋め尽くし、まるで炎の中を歩いているようだった。

祐都は病院の玄関でそわそわと待ち侘びていた。

華音を見つけると大きく手を振った。

「良かったよ。来てくれて……」

ニコリと微笑んだ。

「ごめんね、つき合わせて。」

「いいよ、瑛のお見舞いのついでだから。」

前の年の暮れに、祐都と瑛は電撃的に入籍した。

程なく瑛は妊娠した。

仕事は変わらず続けていたが、無理がたたって入院しているのだ。

「瑛さんの体調はどう?」

「絶対安静にさせている。早産の危険があるからね。」

ぶつぶつと祐都は唸った。

「働き過ぎなんだよ!アキのために会社を守るんだってきかないんだ。」

「ごめんね、瑛さんに負担を掛けて……」

「華音が気にすること無いさ。これからは俺と貞春さんで瑛の分は受け持つから。つーか貞春さんに仕事させないと。」

ムッと祐都は頬を膨らませた。

「だいたい貞春さんも浮かれすぎなんだよ。ミセツさんとつき合い始めたからって!」

「幸せいっぱいなのよね!」

華音はケラケラと笑った。

「男の子なの?女の子なの?」

「それが瑛は教えてくれないんだ。生まれてからのお楽しみだって。」

「どっちがいい?」

「どっちでもいいよ、無事に生まれてくれたら。」

「ヒロトもパパになるのね!」

「ああ、俺が瑛と子供を守るんだ。」

頬を赤らめる祐都を見上げ、華音は羨ましく思った。



診療時間はすでに終わっていたが、待合室にはまだ沢山の患者が残っていた。

病院の受付で案内された通りに、華音と祐都はナースステーションに向かった。

二人の看護師が入っていくところだった。

「午前中の患者さんまだまだ終わらないね!」

「今日はずいぶん多いわ。」

「ユウタ先生の診療日だから!」

「ああそうね!」

二人は笑いあった。

「大丈夫。俺がそばにいるから。」

戸惑う華音の手をぎゅっと祐都は握った。

「ありがとうヒロト。」

華音はうなずいた。

「すみません。大神先生に面会をお願いします。」

声を掛けられた看護士達はチラチラと華音を見た。

「どちらさまですか?」

「高塔と申します。友人です。」

「お待ちください。」

ヒソヒソと話し合い、一人が診察室へ歩いて行った。

ナースステーションにいた他の看護師達も何事かと様子を伺っていた。

赤ちゃんを抱えた母と娘が診察を終えて出てきた。

「ママ、もうユウタ先生に会えないの?」

「赤ちゃんも生まれて今日で退院だからね。」

「私また病院に来たい!」

「ユウタ先生に会いたいんでしょ!」

笑いながら母と娘は去って行った。

「ユウタの奴、モテモテなんだよ。あいつに診てもらうために予約を取るのが大変なんだ。」

祐都がヘラヘラと笑った。

バタンと大きな音がして、白衣の男が飛び出してきた。

「ユウタ!久しぶり!」

祐都は懐かしそうに声を上げた。

「待ちくたびれたよ!」

*
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