奥さまは子猫チャン
□第21章 元婚約者の存在
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拓真さんはマダム・アレクサンドラに挨拶を済ませると、私達を見つけにこやかに近づいて来ました。そして私の前で腰を屈め、恭しく手を取ってチュッと口付けました。
「見違えたね、子猫チャン。そのドレス、良く似合うよ。すっかり大人のレディだ。」
「気障な真似をするな。どうだ、俺の紗菜子は美しいだろう?彼女は磨けば磨くほど輝くんだ。」
「フフ、それは当てつけかい?」
振り向いた拓真さんはスッと手を差し伸べ、後ろに控えていた里香さんを招きました。
「お久しぶりね、義臣。あなたが新妻を連れて来ると言うから、紹介していただこうと拓真に頼んでパーティーに連れて来て貰ったの。」
たおやかに首を傾け、里香さんは私達の前に進み出ました。
「あなたが義臣の子猫チャンね。私は二階堂里香、どうぞよろしく。」
華やかな笑顔を私に向け、里香さんは握手を求めて手を差し出しました。
「紗菜子……桂紗菜子です。私こそ、よろしくお願いします。」
思わず深々と頭を下げました。顔をあげると里香さんは優しく私を見つめていて、なぜか私の頭を小さな子供を誉めるように撫でたのです。ひゃ!意外にも気さくな方かもしれません。
「紗菜子ちゃん、義臣、またあとでね。他のみなさまにも挨拶をしなくてはならないから。」
「ああ。」
拓真さんはまた里香さんの手を取って優雅に歩き出しました。スタイルの良いお二人が並んでいるとまるで映画のワンシーンのようです。なんて素敵な女性なのでしょう。ボーっと見惚れていると、私の手を義臣さんがギュッと掴みました。その顔は少し心配そうに歪んでいます。
「……紗菜子、里香が気になるかい?」
「いいえ、とてもキレイな方ですね!」
「こういうパーティーでは誰よりも目立つ存在だろうな。」
そうして義臣さんは私を連れて招待客の方々に挨拶して回りました。秘書の相馬さんのレクチャーのおかげで、初めてお逢いする方でも気負わずにご挨拶できたと思います。ただ、にこやかに相対しながらも興味深げに探られました。私達の結婚について無粋な質問を浴びせる方もいて……そのたびに義臣さんが爽やかに煙に巻いてくださったのです。少し前まで義臣さんの絶対的な婚約者だった二階堂里香さんが同じ会場に同席しているので、私達の姿を遠巻きに見ながらクスクスと噂話をする方達も大勢いました。
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