奥さまは子猫チャン
□第27章 向き合って
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受験シーズン真っ只中、学問の神様をお祀りしている神社は、受験生やその保護者達でごった返していました。
「友莉が合格しますように!友莉が合格しますように!」
両手を合わせ、杏ちゃんは何度も呟き続けました。私と麻美ちゃんも一緒にお祈りしました。お守りを買って、お手紙を書き、友莉の家に郵送しました。友莉に私達の気持ちが届きますように!
「紗菜子、杏ちゃん、ところでこの人は?」
麻美ちゃんが不思議そうに私達の隣りにいるイケメン青年を指差しました。
「申し遅れました、ワタクシ田中と申します。紗菜子奥さまの警護に当たっているのです。」
そうなのです。お出掛けの時は常時警備の人がついてくるのですが、いつもは女性の方で影に隠れているのです。だけど、杏ちゃんのたってのお願いを聞き入れ、田中浩務さんに担当していただきました。
「紗菜子の警備の方なのに、なんで杏ちゃんがベタベタしているのよ?」
「だってぇー!初詣の時に逢ってから、もう一度お話したいと思っていたんだもの!」
「そ、それは光栄です!」
浩務さんははにかんだ笑顔で答えました。私付きの運転手をしている田中さんのお孫さんで、体格も良く爽やかなイケメンです。確かに杏ちゃんの好みのタイプだわ。
「杏ちゃんって、彼氏にするならお医者さまとか弁護士がいいんじゃなかった?」
麻美ちゃんがこっそりと尋ねました。
「やだ、彼氏とかじゃないわよ!」
真っ赤になって必死に手を振る杏ちゃんを、浩務さんが優しく見守っています。これは、私がキューピッドになって仲を取り持ってみますか!
その夜は約束通り、義臣さんとお出掛けしました。お店は『リストランテ・トウヤ』と伺ったので、大人っぽいワンピースを選びました。
「久しぶり、大学合格おめでとう!今日はお祝いにご馳走するよ。」
拓真さんはいつものキラースマイルで出迎えてくれました。お店の中へ案内される途中、常連客らしい方々に次々声を掛けられました。拓真さん、とても有名なのですね。
義臣さんと三人で個室に入り、フルコースをいただきました。アンティパストから始まって、サラダもスープも肉料理も最後のデザートに至るまでどれも超一流です。
「美味しかったー!ご馳走様でした!」
「これからもご馳走させてもらうよ。紗菜子を唸らせる極上の料理を用意するからね。」
「楽しみです!」
拓真さんは笑いながら、ワインを飲み干しました。
「ところで、拓真に聞きたいことがある。友莉のことなんだが……お前、あの子をどうするつもりなんだ?」
おもむろに、義臣さんは切り出しました。
「どうもしないよ。ぶっちゃけキスすらしていないしね。大学受験が終わるまで、家庭教師の役割をするつもりさ。」
「友莉の気持ちは知っているんでしょう?」
「うん。友莉はイイ子だけど、俺は彼女の気持ちに答えられない……」
きっぱりと拓真さんは言い切りました。
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