奥さまは子猫チャン
□第33章 子供じゃありません
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しばらくして、信成さんは帰って来ました。拓真さんがいるのを見てフッと眉を寄せました。
「先にメシを食ってもいいかな。腹減っているんだ。」
部屋に戻ってスーツを脱いで部屋着に着替えた信成さんは、戻って来ると淡々と夕食を食べていました。私と友莉はいつものように信成さんのそばでお喋りをし、信成さんも相槌を打って笑い合いました。
「信成、そろそろ重大発表とやらをしてくれないか?」
拓真さんとワインを飲んでいた義臣さんが頃合いをみてそう告げました。
信成さんはチラリと私と友莉を見て、おもむろに口を開きました。
「この四月から、桂グループのアメリカの現地法人を任されることになった。向こうに行くのはもう少し先だけどね。」
友莉の顔が青ざめました。
「ここにいるみんなにはお世話になりました。俺もそろそろ腹を括って大人になることにしたよ。」
「野望には程遠いノブが社長になるとはね。」
拓真さんはフフっと笑い、信成さんの持っていたワイングラスにコツンと自分のグラスを当てました。
「今でも野望なんて持っちゃいないさ。ただ、いつまでも遊び回っている年でも無いからな。」
「ノブくん……」
見れば、友莉の瞳は潤んでいます。いきなりお別れなんて、そんなこと寂しいに決まっています。
「女子大生になった紗菜子や友莉と遊べないのが寂しいなぁ……」
「お独りで行くつもりですか?」
私が尋ねると、信成さんはクシャリと顔を歪めました。
「まあね、向こうで青い目の奥さんでも貰うかな……拓真、友莉のことを頼むよ。」
「頼まれたところで、気安く引きうける訳にはいかないよ。友莉の気持ちを聞いてからだろ?」
「私……」
ドキリとしました。友莉の気持ちはどうなんだろう?拓真さんのことはまだ好きなのでしょうか?
「やっと大学に入ったばかりよ?先のことは考えられない。」
「だよな。大学で大金持ちの超イケメンをゲットするかもしれないし。」
「そうじゃなくて!」
友莉は突然立ち上がりました。
「だって、まだ彼女にもなっていないのに結婚なんて考えられないじゃない!私、もう子供じゃないよ!何度もそうノブくんに言ってるでしょ?ついてこいって言われたらアメリカに行く!待ってろって言うなら何年でも待ってる!」
「友莉……拓真のことはいいのか?」
「俺達は何でもないよ、受験の前に一時期俺のマンションを勉強部屋として提供していただけだ。」
フッと顔を曇らせた友莉は、意を決したように唇を噛みました。
「私……拓真が好きだった時もあるよ……でも、今は違うから……もう子供扱いしないで。ちゃんと私を見て!ずっと前から、私はノブくんが好きだったの……」
「ククク、確かに今まで俺は友莉を『オンナ』と思ったことは無かったよ。大体年が離れすぎだろ?……だけど、兄貴と紗菜子の年の差より、俺と友莉の方が少ないもんな。紗菜子も立派に『オンナ』だし?」
「信成、紗菜子に邪な感情を持っているなら今すぐこの屋敷から叩きだすぞ!」
「義臣さん!」
「話がずれたがつまりだ、ノブは今現在、友莉を彼女にしてもいいと思っている訳だな?」
真っ赤な顔で怒り出した義臣さんを「まあまあ」と制して、拓真さんが信成さんに尋ねました。
信成さんはふと横を向き、友莉の瞳を覗きこみました。
「……大学卒業するまで、遠距離恋愛するか?」
「うん!遠距離恋愛でもいいし、遠距離結婚でもいいわよ?虫よけに大きなダイヤのついた婚約指輪を買ってね!」
「ったく、お前はいっつもそうだな!」
「結婚したら、紗菜子お義姉さまを見習って良い奥さまになるように努めるわ!」
ケラケラと笑って、信成さんは友莉の頭を撫でました。
「良かった、これで二人は正式に恋人同士になったのね!」
私はキャアと友莉に抱きつきました。
「早速、エッチするか?」
「結婚するまではお預けよ。ヴァージンは護っておくわ。」
「ククク、紗菜子、友莉に大人の悦びを教えてやってくれよ。」
「もう、そう言うことはノブさんから教えてあげてください!」
「何よ、みんなで大人ぶってぇ!」
「とりあえず、俺の部屋に来なさい。いろいろと話しておきたいことがあるんだ。」
信成さんは友莉の手を掴むと、あっという間に部屋を出て行ってしまいました。
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