奥さまは子猫チャン
□第34章 何年でも
3ページ/4ページ
「あの、それって、里香さんのことではないですか?」
「えっ?」
余計なお世話をしてしまいました。里香さんは唖然として拓真さんを見つめ、拓真さんも気まずそうに見つめ返します。
「それは……無いわよね?拓真はいつだって義臣の味方だもの……それとも、義臣に棄てられた私が可哀想で慰めてくれるのかしら?」
「里香、棄てられたとか言うな。あなたはいつだって気高い人だ。慰められるなんて誰よりも嫌いだろう。」
里香さんはプイっと横を向きました。
「まだ、義臣が好きなのか?」
「なんでそんなことを言うの?」
「はっきりさせたいからだよ。この先も、ずっと義臣を引きずって生きて行くのか。」
「義臣にはその可愛い子猫チャンがいるのよ。私が義臣にいつまでも未練たらたらでいるはずが無いでしょう?」
「その言葉は本心だね?俺にもチャンスはあるんだな。」
「拓真が……まさか、そんなこと……あなたが私を好きだなんて、信じられないわ。今までだって一度もそんな素振りを見せたことは無いじゃない。」
「そうだね、親友の婚約者に色目を使うような、卑怯な男にはなりたくないからな。」
「フフ、俺も今の今まで気付かなかったよ。拓真が里香を愛していたなんて。」
「ひどいよ、ヨッシー。初めて逢った時からずっと里香一筋だったのになぁ……ずっと自分を押し殺して、二人を見守っているのは辛かったよ。特に、ヨッシーが里香に拉致られて、ハワイで童貞を棄てた時はお前を殺してやろうかと……」
「拓真、その話は二度とするな!」
「ウフフ、そんなこともあったわね……」
里香さんは突然口を押さえて笑い転げました。そのうちに声は静まり、うつむいたまま涙を流し始めました。
「嫌ね、昔のことばかり思い出して……義臣のこと、婚約していた時は好きだなんて意識もしなかったのに……いなくなったらポッカリと身体に穴が空いたみたいで……」
「里香、すまない、俺の横に居るのは紗菜子だ。他の誰でも無い。」
「分かっているわ、そんなこと。義臣を引きずって生きるつもりもありませんから。」
グイっと涙を拭い、毅然と顔を上げて里香さんは私達に向かいました。
「面白い冗談だったわ。ごきげんよう、またお逢いすることもあるかしら。その時にお話の続きを聞かせてちょうだい。」
里香さんはくるりと背を向けて、出口に真っすぐ向かって行きました。
*