奥さまは子猫チャン

□第34章 何年でも
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「あの、それって、里香さんのことではないですか?」

「えっ?」

余計なお世話をしてしまいました。里香さんは唖然として拓真さんを見つめ、拓真さんも気まずそうに見つめ返します。

「それは……無いわよね?拓真はいつだって義臣の味方だもの……それとも、義臣に棄てられた私が可哀想で慰めてくれるのかしら?」

「里香、棄てられたとか言うな。あなたはいつだって気高い人だ。慰められるなんて誰よりも嫌いだろう。」

里香さんはプイっと横を向きました。

「まだ、義臣が好きなのか?」

「なんでそんなことを言うの?」

「はっきりさせたいからだよ。この先も、ずっと義臣を引きずって生きて行くのか。」

「義臣にはその可愛い子猫チャンがいるのよ。私が義臣にいつまでも未練たらたらでいるはずが無いでしょう?」

「その言葉は本心だね?俺にもチャンスはあるんだな。」

「拓真が……まさか、そんなこと……あなたが私を好きだなんて、信じられないわ。今までだって一度もそんな素振りを見せたことは無いじゃない。」

「そうだね、親友の婚約者に色目を使うような、卑怯な男にはなりたくないからな。」

「フフ、俺も今の今まで気付かなかったよ。拓真が里香を愛していたなんて。」

「ひどいよ、ヨッシー。初めて逢った時からずっと里香一筋だったのになぁ……ずっと自分を押し殺して、二人を見守っているのは辛かったよ。特に、ヨッシーが里香に拉致られて、ハワイで童貞を棄てた時はお前を殺してやろうかと……」

「拓真、その話は二度とするな!」

「ウフフ、そんなこともあったわね……」

里香さんは突然口を押さえて笑い転げました。そのうちに声は静まり、うつむいたまま涙を流し始めました。

「嫌ね、昔のことばかり思い出して……義臣のこと、婚約していた時は好きだなんて意識もしなかったのに……いなくなったらポッカリと身体に穴が空いたみたいで……」

「里香、すまない、俺の横に居るのは紗菜子だ。他の誰でも無い。」

「分かっているわ、そんなこと。義臣を引きずって生きるつもりもありませんから。」

グイっと涙を拭い、毅然と顔を上げて里香さんは私達に向かいました。

「面白い冗談だったわ。ごきげんよう、またお逢いすることもあるかしら。その時にお話の続きを聞かせてちょうだい。」

里香さんはくるりと背を向けて、出口に真っすぐ向かって行きました。



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