山田センパイ
□第5章 愛する人のそばにいて
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シホは唖然とした。
月曜日、出社すると営業総務部のデスクの配置が変わっていた。
両サイドに別れていた山田美弥子と相澤翔平のデスクが向かい合わせにくっつき並んでいた。
営業一部の応援に行っていた美弥子も戻って来た。
そして…
「相澤…」
隣りに座る翔平にシホは小声で話し掛けた。
彼は返事をしなかった。
「相澤!」
「………はい?」
「その作業、急ぎだよ。」
「そーですねぇ…」
「あと、永井さんの請求書も11時に客先に届けるんだから早くして。」
「そーですねぇ…」
生返事をしたものの、彼はまたボーッととろけて向かいに座る美弥子に見惚れていた。
いつもキビキビと仕事をする彼が、別人のように腑抜けている様にシホは戸惑った。
「相澤。」
パソコンの画面を睨んだまま向かいの席の美弥子が口を開いた。
「山田センパイ、何でしょう?」
翔平はガバッと立ち上がった。
「仕事をしろ、相澤。」
ピシャリと言い放つと、何事も無かったように美弥子はキーボードを叩いた。
「分かりました!」
嬉しそうにデレデレと顔を弛めたまま翔平はやっと資料に目を向けた。
*