業火の果て

□第1章 キスの境界線
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華音は息を切らしながら体育館に駆け込んだ。

試合はすでに始まっている。

ワァァッという歓声の後に短く甲高い笛が吹かれた。

「アキ、勝ってるかな?」

二階のギャラリーに飛び込み、電光掲示板を見た。

「20点も負けてるっ!」

慌てて手すりにしがみつきコートをのぞいた。

啓太がドリブルでボールを運び、パスを回す。

ゴール下に走り込んだ彬従(あきつぐ)がボールを受け、シュートを打つが、リングに嫌われ弾かれた。

相手チームにリバウンドを奪われ、逆に得点を重ねられた。

「さっきから惜しいよね、あの白の4番!」

「めっちゃカッコいい!」

「イケメンだね!」

そばにいた他の中学校の女子達がきゃあきゃあと彬従の噂をしていた。

エンドラインから慎がスローインし、再び啓太が運ぶ。

残り20秒。

「がんばってアキっ!」

華音は思わず叫んだ。

チラリと上を見た彬従はゴール下の密集に突っ込んだ。

祐都からのパスが真下に通り、彬従は鮮やかにシュートを決めた。

大差をつけられ前半を終了した。



「カッコ悪いとこ見られなくて良かった。」

ギャラリーを見上げ、彬従はフフッと笑った。

「アキ!何ちんたらやってんだよ!」

祐都が並んでベンチに下がりながら彬従を叱った。

「これからこれから!」

悪びれもせず彬従は笑った。

「もー何本落としてるのよ!よそ見ばっかりしてるから!」

タオルを渡しながら、マネージャーの恵夢も文句を言った。

「大丈夫、勝利の女神が来たから。」

彬従はニコリとした。

「しょうがないなぁ、ベンチに呼んであげるよ。」

恵夢は二階を見上げて手招きした。

「華音!こっちへおいで!」

手すりからのぞいていた華音はニコリとし、急いで階段を駆け下りた。

「遅いよ!」

顔を見るなり彬従がプクッと頬を膨らませた。

「だって、吹奏楽部だって県予選があるから練習休めないのよ!」

華音は負けずに言い返した。

「でも、アキが初めて4番付ける試合だから、絶対応援したかったんだ。」

「後半逆転するから観てて。」

「うん、がんばって!」

華音に励まされ、彬従は照れ笑いを浮かべた。

後半が始まると、彬従は次々とシュートを決め、宣言通り試合をひっくり返し勝利した。

華音と恵夢は抱き合って喜び、ベンチの選手達と嬉しそうに次々ハイタッチした。

彬従は真っ先に華音の元に駆け寄った。

「おめでとう!アキ、凄くカッコ良かったよ!」

笑いかけた華音に彬従はぎゅっと抱きついた。

「ギャー!汗でびしょ濡れじゃない!」

「がんばったご褒美にキスして。」

「みんなが観てるよ!」

「観られてもいいじゃん。」

「ダメよ!」

華音は突き放した。

「人前でキスなんかねだるな!華音が困るだろ!」

祐都も慌てて止めた。

「じゃあ帰りに絶対して。」

「アキのバカっ!」

ポコポコと殴る華音の手を捕まえ、彬従はクスクスと笑った。



フロアを出ると女の子の集団が彬従をとり囲み、キャーキャーと騒ぎ立て、彬従はその一人一人に笑顔で応えた。

「アキのファンがどんどん増えるわ……他の中学校の子までいる!」

恵夢は呆れた。

「あれだけ派手なプレイしたら目立つよなぁ。」

祐都も苦笑いして眺めた。

「メグ、ズルいよ!華音だけベンチに入れて!」

同級生の女子達がブーブー文句を言った。

「華音はいいの!マネージャーみたいなものだから!」

「バスケ部のマネなんて無理よ!」

華音は慌てて否定した。

「アキ専属でいいんじゃない?」

「華音がいるとアキが本気出すからね!」

祐都がからかい、恵夢も賛成した。

「あの子達を敵に回せって言うの?」

華音は青くなって取り巻きの女子達を指差した。

「確かに身の危険は感じるな!」

祐都は気の毒そうに言った。

チームは続く試合も勝ち上がり、決勝トーナメントへ進出した。



いつものように近くのハンバーガーショップで打ち上げをし、バスケ部のメンバーは帰り道についた。

「来週も絶対応援に来てね!」

「ごめん、来週はダメなの!」

恵夢が華音の腕を取ると、華音は困った顔をした。

「なんで?」

彬従はムッとした。

「今日の部活を休む代わりに、来週ヤスと映画に行くって約束したの。」

「なんであいつが関係あるの?」

「だってヤスが吹奏楽部の部長だから。」

「それってデート?」

「違うよ。ヤスが無料券があるって言うから行くだけよ。」

「映画に行きたいなら俺が行ってやる。」

「アキはバスケ部で忙しいでしょ!」

「いいよサボるから。」

「キャプテンがそんなこと言ったらダメよ!」

「お前自覚が無さ過ぎ!県大会が掛かってるんだぞ!」

*
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