業火の果て

□第2章 違えられた未来
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「アキ、ミドりんが生徒指導室に来いって言ってたよ。」

恵夢が担任の緑川の伝言を伝えに来た。

「あの人バスケ部顧問のくせに、今日部活だって知らないのかよ。」

練習着を着終えた彬従は口をへの字に曲げた。

「何をやらかしたの?」

恵夢は彬従の顔をのぞき込んだ。

「別に何もしてねぇぞ。」

「だったらなんで呼び出されるの。」

両手を腰に当て、彬従に顔を近づけた。

「とにかく行ってくる。今日の練習はヒロトに任せるって言っといて。」

「もうすぐ大会なんだから早く戻って来てね!」

「了解!」

ジャージを上に着て恵夢に手を振り、彬従は生徒指導室に向かった。



ドアを開けると、タバコの煙がもうもうと立ちこめていた。

「ここでタバコ吸うなよ、先生のくせに。また榎倉に怒られるよ。」

彬従は窓を次々開けていった。

「アキがなかなか来ないからだろ。」

緑川は灰皿にタバコを押し付けた。

「進路調査票に《就職希望》なんて嫌がらせ書くなよ!余計な仕事増やさないでくれない?」

「本気なんだけど。」

「アホか!県内一優秀な高校にトップで合格出来るアキが何言ってんだ!」

「親父の世話になりたくないんだ。」

「ケンカでもしたのか?」

「仲が悪いのは昔からだよ。」

彬従はブスッとして机に肘をついた。

「あの調査票、マズいことに榎倉先生に見られちまったんだ。それでお前の親父さんに連絡が行って、これからお前を交えて面談することになったのさ。」

「嘘だろ?親父が来る訳ない!」

「親父さんは都合が悪いって言うんで、代わりに高塔のかーちゃんが来てるんだ。今校長室に挨拶に行ってる。」

彬従は青ざめた。

「諦めてお説教してもらえ。自業自得だろ。」

「いきなり親を呼び出すか?」

頭を抱え、彬従はうずくまった。

「それは俺も同情するわ。」

無意識に緑川はタバコを取りだそうとし、彬従に手を叩かれ止められた。

「あんなもん、不貞腐れているだけだと思って放置してたのに…」

「ほっとくなよ!」

「アキはかまってちゃんだからな、ゆっくり話を聞こうと思っていたのさ。」

「俺、そんな甘ちゃんじゃねーし。」

彬従は眉をしかめた。

「お前分かってないよね。」

緑川はニカッと笑った。

トントンとドアが叩かれた。

校長、生徒指導の榎倉、そしてスーツ姿の茉莉花が入ってきた。

「なんだ吉良!ちゃんと制服着て来んか!」

開口一番榎倉が怒鳴りつけた。

「すいません。急だったんで吉良に面談があることを伝え損ねました。この後すぐに県大会に向けてバスケ部の練習がありますから。」

緑川が彬従を庇った。

「まあまあお座り下さい。高塔さん、お忙しい中お越しくださってありがとうございます。」

校長が椅子を勧めた。

茉莉花は礼を述べ腰を下ろした。

「彬従君は大変優秀なお子さんです。勉強もスポーツも抜きん出ていますから将来楽しみでしょう。」

「ええ、昔から悪戯が過ぎることもありましたけど。」

茉莉花がふっと口の端を上げて笑った。

寒気を感じ、彬従はブルッと身を縮めた。

「わざわざこちらに伺ったのは、今回のことだけでは無いんですよ。」

目を伏せ穏やかに茉莉花は続けた。

「彬従の進路について、良い機会ですから先生方にご相談に乗っていただきたいと思いまして…」

「と言いますと?」

「仰るとおり、この子は素晴らしい才能を持っています。将来は私達一族のために大いに役立ってもらいたい。」

すっと視線を彬従に投げた。

「そのために県外の優秀な進学校に進ませたいと考えていた所なんですよ。」

茉莉花の言葉に、彬従は耳を疑った。

「俺は華音と同じ地元の高校に行きます…」

「あなたはもっと優秀な学校で成長するべきです。」

笑わない目で茉莉花は彬従を見据えた。

「我々の出来うる限りを尽くして、彬従君を優秀な高校に進学させますよ。」

校長と茉莉花の世間話が続いたが、彬従の頭には何も入ってこなかった。



茉莉花が帰ったあと、彬従は立ち上がれずにいた。

「元気だせよ。」

緑川が慰めた。

「俺、あの家から追い出されるのかな。」

「まだ決まった訳じゃないだろ?進学するのはアキなんだから。」

「俺達にとって、茉莉花さまの意見は絶対なんだ…」

彬従はうなだれた。

緑川はタバコに火をつけた。

「俺は教職に就いて初めてこっちに来たから、この地方のこと全然知らないけど…」

煙をふうっと吐き出した。

「高塔んちって、いわゆる地元の名家なの?校長や榎倉先生までペコペコしてただろ。」

「この地方の企業はほぼ高塔財閥の傘下にあるんだ。茉莉花さまがその総裁をしている。」

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