業火の果て

□第3章 暗闇の中の光
1ページ/5ページ


彬従の態度は以前と変わらなかった。

ふざけたりからかわれたり優しくされるたび、華音は辛くなった。

学期末が近づき雪が街を埋める頃だった。

同じクラスの陽菜が友達に囲まれて泣いていた。

「どうしたの?」

華音は尋ねた。

女子達は一斉に戸惑いを見せた。

「知ってる?アキのこと。」

「何?」

「女バスの菜月先輩にコクられて、付き合い始めたって!」

皆の視線が突き刺すように華音は感じた。

「聞いてないよ!」

華音はわざとおどけてみせた。

「女バスの後輩が盛り上がって、先輩を猛プッシュしたみたい。」

「私だって何回もコクってるのに!」

陽菜がまた泣き出した。

「ヒナと同じ思いの子ならいっぱいいるよ。」

級友達は慰めた。

「アキはチャラくても最後は堕ちないでみんなのものだったのに!」

「なんで特定の彼女作るのよ!」

級友の嘆きを聞きながら華音は目の前が暗くなった。



吹奏楽部の練習が長引き、いつもより遅くに華音は帰り道についた。

川沿いの道を歩いていると、チリリンとベルが鳴った。

振り向くと彬従が自転車に跨がっていた。

「久しぶりだな。」

「隣り同士なのにね。」

それは、彬従となるべく顔を合わせないように時間をずらして登下校しているからだった。

「アキ、彼女が出来たってホント?」

「ナツキのこと?」

彬従が呼び捨てにしたことに、華音は不意に苛立った。

「女バスの奴らに取り囲まれて、うんって言うまで帰してもらえなくて、仕方無くね。」

「仕方無くなの!?」

「でもないけど。美人だし、バスケ話も通じるし、ヤラせてくれるから。」

「最低!本気じゃないの?」

「俺は誰とも本気にならないから。」

彬従は嘲るように笑った。

「付き合ってって言われたら誰とでも付き合うよ。でもみんな遊びだから。」

華音をからかうように見つめた。

「だけど、茉莉花さまの言う通り、然るべき年齢になったらちゃんと結婚する。高塔家に相応しい相手とね。」

華音は唖然とした。

「その時華音が高塔家の当主だったら、俺の結婚相手はお前が決めるのかもね。出来たら華音に似てる巨乳の美人にしてよ。」

「アキなんか大嫌いっ!」

華音は彬従の頬を平手で殴った。

「お前も早く彼氏作りなよ。」

彬従はぷいと横を向き、自転車で走り去った。



数日後、彬従は一人黙々とシュート練習をしていた。

「なんか悩み事でもあるのかよ。」

振り返ると、祐都がヤンキー座りでこちらをみていた。

「なんもねぇよ。」

「嘘つけ!アキが真面目に練習するなんて、大抵ヘコんでる時だろ?」

「……華音に大嫌いって言われた。」

「お前が彼氏作れとか言うからだろ。」

「なんで知ってんだよ?」

「華音が怒って彼氏作ってやるって言ってたって、理沙が聞いたらしいよ。んで、勘違いしたヤロウどもがコクりに行って、次々撃沈してたらしい。」

「バカだなぁ。」

彬従はうれしそうに笑った。

「でもないぜ。鳴瀬がしつこく迫ってて、華音が今日あいつに決着付けに行くらしい。」

「はぁ!?ヤラれにいくようなもんじゃねぇか!」

彬従は顔色を変えた。

「鳴瀬はどこだよ!」

「今なら部室じゃね?」

「確かサッカー部だよな?」

彬従は走り出した。

「そうだけど、どこに行くんだよ!」

祐都は慌てて彬従のあとを追った。

校舎のはずれにあるサッカー部の部室に着き、ドアを開けようとしたが鍵が掛かっていた。

「華音!いるのか!?」

彬従はドンドンと叩いた。

「ここじゃないのかな?」

祐都が呟いた。

「……アキっ!」

部屋の中から華音の叫び声がした。

彬従はドアに体当たりしてこじ開け、部室に飛び込んだ。

華音が鳴瀬に口を押さえられていた。

「華音を離せ!」

鳴瀬の胸倉をつかんで引き離し、顔面を殴りつけた。

「何すんだよ!」

「華音に触るな!」

「うるせぇ!アキこそ邪魔すんなっ!」

鳴瀬も負けずに殴り返し、取っ組み合いのケンカになった。

「やめて!やめて!」

華音は叫んだ。

「いいよ、好きにさせておきな。」

祐都が華音を押さえた。

彬従と鳴瀬はしばらく殴り合い、力尽きて床に倒れ込んだ。

「ふざけんな!なんでアキに追い討ち掛けられなきゃなんねぇんだよっ!」

「華音はお前なんかが手を出していい女じゃ無い!」

「アキの女じゃねえだろ!」

カッとなり、彬従は拳を振り上げた。

「お前もいい加減にしろ。」

祐都は彬従の腕をつかんだ。

「アキ!もうやめて!」

華音が彬従の背中にしがみついた。

「バカヤロウ!俺はまだなんもしてねぇぞ!華音にバッサリ振られただけだ!」

*
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ