業火の果て
□第7章 宴の夜
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ベッドの中でタオルケットを引き寄せ、柊は寝返りを打とうとした。
「いい加減に起きて!今日シュウの学校の学園祭に連れて行ってくれるんでしょ?」
タオルケットを沙良はバッと剥がした。
「今日こそアキを紹介してよ!」
「わかったわかった。」
沙良を払い除けるように柊は伸びをした。
「期待してるようだけど、アイツは彼女いるぜ。」
「気にしないわ。」
「略奪する気?」
「恋は駆け引きって言うのよ!」
「張り切ってるね。」
ふゎあと柊は欠伸をした。
「がっついていると空回りするから、少し気合いを抜いておけば。」
柊は沙良を押し倒し、着ていたワンピースを脱がせて裸にした。
「ヤキモチ焼いてるの?」
「……沙良にとって、俺は何?」
「今更何よ?」
沙良も柊の服を剥ぎ取り、むき出しの肌に舌を這わせた。
「凄い!夏祭りみたい!」
彬従に招かれて、華音は祐都と恵夢とともに学園祭にやってきた。
中学と高校の合同文化祭は、来場者数も多く、催し物も工夫を凝らし華やかで魅力的だった。
バンドのライブ演奏や演劇部の発表、クラスの展示の他に、文化部運動部の勧誘を兼ねた模擬店で賑わっていた。
「12時に交代が来るから、それまで暇つぶししてて。」
彬従はバスケ部の模擬店を手伝っていた。
「ヒロトとメグは二人で回ってきていいよ。私はアキを待ってる。」
「じゃあ、あとで合流しよう。」
「ごめんね華音、先に行ってくる。」
久しぶりに逢うという祐都と恵夢に気を使い、華音は二人を見送った。
12時半になり、やっと彬従は解放された。
2ヶ月ぶりに逢う彬従は、大人っぽく見えた。
「髪が伸びたね。」
華音は思わず彬従の髪を撫でた。
「長すぎる?切りに行く暇が無いんだ。」
「ううん、カッコいいよ。髪の長いアキって初めてだから違う人みたいでドキドキする。」
華音はふわりと笑った。
彬従も釣られて微笑んだ。
「でも家に帰る時は切ってね。お母さんが嫌がるから。」
「分かった。」
彬従は苦笑した。
「今日はホテルに泊まるんだよね。」
「ヒロトがお母さんに頼んでくれたの。」
「俺も外泊許可もらったから、夜も一緒に居られるよ。」
彬従は顔を赤らめた。
「良かった!ヒロトもメグも、アキといっぱい話したいことがあるって言ってた。」
笑顔で答える華音を、彬従はがっかりしながら見つめた。
「シュウ君には逢った?」
「二学期の始めに話をしたよ。そのあとは全然絡んでない。」
「ケンカしたの?」
「してないよ。華音の言いつけは守ったから。」
突然、彬従は不機嫌になった。
「どうしたの?」
「何が?」
「アキは最近すぐに怒る。」
「怒ってないよ。」
「怒ってるよ。」
「だったら、シュウの話なんかするな!」
「久しぶりに逢うのに、ケンカしたくない。」
華音は彬従の手をぎゅっと握りしめた。
「華音はズルいよ……天然過ぎる。」
彬従は赤くなってうつむいた。
「もう他の子の話はしない……」
華音は背伸びをして、彬従に唇を重ねた。
「俺も悪かった……」
キスを返す彬従の唇がいつもより熱く感じた。
華音は彬従を離さないように腕を絡めて抱き合った。
模擬店はどこも混雑していた。
慣れない暑さが息苦しく、華音は校舎の陰に座り込んだ。
「何か飲み物買ってくる。日陰で待ってて。」
彬従は人混みに紛れていった。
華音はうずくまり、息を整えた。
「大丈夫?具合悪いの?」
頭の上から聞き覚えのある声がした。
「シュウ君!」
見上げると柊がのぞき込んでいた。
「やっぱり来てたんだ。また逢えて嬉しいよ。」
柊はニコニコと笑いかけた。
「私もよ!」
華音は飛び上がるように立ち上がった。
「あなたが華音ちゃん?シュウに聞いてるわ!」
隣にいた少女が親しげに話しかけてきた。
その少女の美しさに、華音は思わず見とれた。
柊と並ぶとバランスの良い背丈で、華やかで美しい顔立ち、モデルのようなスラリと細い姿態をしていた。
「いとこの由良だよ。」
由良は人懐こい笑顔で華音の手を取った。
「初めまして、逢えて嬉しいわ!私は天日由良よ。双子の姉の沙良もいるの。」
「私も逢えて嬉しいです!」
華音は由良の手を握り返した。
「華音ちゃんとは仲良くなれそう!」
近寄りがたいほど美しい由良だが、中身は普通の女子高生のようで、華音はホッとした。
「沙良さんはどこですか?」
「沙良ならアキに逢いに行ったわ。」
「しっ!」
柊が由良を制した。
「何かあるの?」
華音は柊をにらんだ。
「前に逢ってから、沙良はアキを気に入って、出来れば彼氏にしたいらしくて……一人でコクりに行ったのよ。」
由良が申し訳無さそうに言った。
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