業火の果て

□第7章 宴の夜
1ページ/4ページ


ベッドの中でタオルケットを引き寄せ、柊は寝返りを打とうとした。

「いい加減に起きて!今日シュウの学校の学園祭に連れて行ってくれるんでしょ?」

タオルケットを沙良はバッと剥がした。

「今日こそアキを紹介してよ!」

「わかったわかった。」

沙良を払い除けるように柊は伸びをした。

「期待してるようだけど、アイツは彼女いるぜ。」

「気にしないわ。」

「略奪する気?」

「恋は駆け引きって言うのよ!」

「張り切ってるね。」

ふゎあと柊は欠伸をした。

「がっついていると空回りするから、少し気合いを抜いておけば。」

柊は沙良を押し倒し、着ていたワンピースを脱がせて裸にした。

「ヤキモチ焼いてるの?」

「……沙良にとって、俺は何?」

「今更何よ?」

沙良も柊の服を剥ぎ取り、むき出しの肌に舌を這わせた。



「凄い!夏祭りみたい!」

彬従に招かれて、華音は祐都と恵夢とともに学園祭にやってきた。

中学と高校の合同文化祭は、来場者数も多く、催し物も工夫を凝らし華やかで魅力的だった。

バンドのライブ演奏や演劇部の発表、クラスの展示の他に、文化部運動部の勧誘を兼ねた模擬店で賑わっていた。

「12時に交代が来るから、それまで暇つぶししてて。」

彬従はバスケ部の模擬店を手伝っていた。

「ヒロトとメグは二人で回ってきていいよ。私はアキを待ってる。」

「じゃあ、あとで合流しよう。」

「ごめんね華音、先に行ってくる。」

久しぶりに逢うという祐都と恵夢に気を使い、華音は二人を見送った。

12時半になり、やっと彬従は解放された。

2ヶ月ぶりに逢う彬従は、大人っぽく見えた。

「髪が伸びたね。」

華音は思わず彬従の髪を撫でた。

「長すぎる?切りに行く暇が無いんだ。」

「ううん、カッコいいよ。髪の長いアキって初めてだから違う人みたいでドキドキする。」

華音はふわりと笑った。

彬従も釣られて微笑んだ。

「でも家に帰る時は切ってね。お母さんが嫌がるから。」

「分かった。」

彬従は苦笑した。

「今日はホテルに泊まるんだよね。」

「ヒロトがお母さんに頼んでくれたの。」

「俺も外泊許可もらったから、夜も一緒に居られるよ。」

彬従は顔を赤らめた。

「良かった!ヒロトもメグも、アキといっぱい話したいことがあるって言ってた。」

笑顔で答える華音を、彬従はがっかりしながら見つめた。

「シュウ君には逢った?」

「二学期の始めに話をしたよ。そのあとは全然絡んでない。」

「ケンカしたの?」

「してないよ。華音の言いつけは守ったから。」

突然、彬従は不機嫌になった。

「どうしたの?」

「何が?」

「アキは最近すぐに怒る。」

「怒ってないよ。」

「怒ってるよ。」

「だったら、シュウの話なんかするな!」

「久しぶりに逢うのに、ケンカしたくない。」

華音は彬従の手をぎゅっと握りしめた。

「華音はズルいよ……天然過ぎる。」

彬従は赤くなってうつむいた。

「もう他の子の話はしない……」

華音は背伸びをして、彬従に唇を重ねた。

「俺も悪かった……」

キスを返す彬従の唇がいつもより熱く感じた。

華音は彬従を離さないように腕を絡めて抱き合った。



模擬店はどこも混雑していた。

慣れない暑さが息苦しく、華音は校舎の陰に座り込んだ。

「何か飲み物買ってくる。日陰で待ってて。」

彬従は人混みに紛れていった。

華音はうずくまり、息を整えた。

「大丈夫?具合悪いの?」

頭の上から聞き覚えのある声がした。

「シュウ君!」

見上げると柊がのぞき込んでいた。

「やっぱり来てたんだ。また逢えて嬉しいよ。」

柊はニコニコと笑いかけた。

「私もよ!」

華音は飛び上がるように立ち上がった。

「あなたが華音ちゃん?シュウに聞いてるわ!」

隣にいた少女が親しげに話しかけてきた。

その少女の美しさに、華音は思わず見とれた。

柊と並ぶとバランスの良い背丈で、華やかで美しい顔立ち、モデルのようなスラリと細い姿態をしていた。

「いとこの由良だよ。」

由良は人懐こい笑顔で華音の手を取った。

「初めまして、逢えて嬉しいわ!私は天日由良よ。双子の姉の沙良もいるの。」

「私も逢えて嬉しいです!」

華音は由良の手を握り返した。

「華音ちゃんとは仲良くなれそう!」

近寄りがたいほど美しい由良だが、中身は普通の女子高生のようで、華音はホッとした。

「沙良さんはどこですか?」

「沙良ならアキに逢いに行ったわ。」

「しっ!」

柊が由良を制した。

「何かあるの?」

華音は柊をにらんだ。

「前に逢ってから、沙良はアキを気に入って、出来れば彼氏にしたいらしくて……一人でコクりに行ったのよ。」

由良が申し訳無さそうに言った。

*
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ