業火の果て

□第8章 雄蜂
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祐都から連絡をもらいホテルに戻ると、ロビーで祐都と恵夢が並んで待っていた。

恵夢は華音達が出て行ったあとしばらくして泣きながら現れたらしい。

ボロボロになった彬従と華音の姿を見て、二人は揃ってあたふたとした。

「ちょっと事故に巻き込まれたんだ。」

彬従は誤魔化した。

「薬を貰ってくる!」

恵夢は飛んでいった。

「何があったの?」

祐都が焦って尋ねた。

「後で詳しく話すよ。」

フロントで借りた救急箱を抱えて恵夢が戻ってきた。

「アキ、怪我している所みせて!」

「俺より華音の方がヒドいから。」

彬従は救急箱を受け取り、華音の手当てをした。

見るからにズタズタなのはアキなのに、と恵夢は心の中で呟いた。

しかし、華音の様子は確かにいつもと違っていた。

「今夜は華音の看病するから一緒の部屋に泊まる。ヒロトとメグは二人で泊まれよ。」

「えっ!?」

喜ぶ恵夢をよそに、祐都は慌てた。

「ヒロトはメグと泊まるのがイヤなのか?」

「イヤじゃないけど!」

「ならいいだろ?」

彬従はさっと華音を抱き上げた。

「悪いけど俺達もう部屋に行くよ。」

彬従の胸に寄り添う華音は首に掛けたネックレスを握りしめぐったりしていた。

「荷物は私が持って行くね。」

恵夢はすぐに後を追った。

彬従達の後ろ姿を祐都は見送った。

言い知れぬ不安が渦巻いていった。



天日の屋敷に戻り、葵と茜は沙良の部屋を塞ぐように立っていた。

「沙良は見つかった?」

由良が来た。

「ご無事です。」

「良かった!中にいるの?」

「はい。」

由良が部屋に入ろうとすると、葵が制した。

「今、柊さまといらっしゃいます。」

耳をすますと、沙良の苦しげな喘ぎ声が漏れ聞こえた。

「シュウったら何してるのよ。傷つくのは自分なのに……」

由良は顔を曇らせた。



両手を押さえつけ、裸の乳房に覆い被さったまま柊は中で果て、繋いだ身体を離そうとはしなかった。

沙良は柊の背中を指でそっとなぞった。

苦しくて立てた爪の痕がはっきり分かるほど深く残っていた。

「シュウ……」

沙良は呼び掛けた。

柊はピクリともしなかった。

「アキが欲しいのか?」

顔も上げずに柊が問うた。

「欲しいのは赤ちゃん。」

沙良は耳元に囁いた。

「ママは私と由良を16才で産んだ。私ももうすぐ16になる。」

柊はやっと顔を動かした。

「一族に繁栄をもたらす強い力が欲しい。誰もが望む優秀な後継ぎが欲しい。」

「俺には叶えてやれないな……」

不意に沙良は柊の細い髪を撫でた。

「赤ちゃんを産んで後継者が出来たら、私は自由に恋愛してもいいのかなぁ。」

「その相手は俺なのか?」

柊の問いに沙良はまた答えなかった。

代わりにそっと唇を頬に押し付けた。



目が覚めると見慣れぬ部屋は明るくなっていた。

彬従は隣りでまだ眠っていた。

顔に出来た幾つもの傷が痛々しかった。

華音は指でそっと触れた。

左目の下には古い傷がある。

これは中一の時、初めてスタメンで出た試合で張り切りすぎて相手の肘鉄を喰らい3針縫った痕だ。

あごの下や肩や腕、胸元にも沢山の傷がある。

生傷が絶えなかったのは、ゴール下の密集に飛び込んで無理やりシュートを決めた姿がカッコ良かったと華音がうっかり誉めてから、彬従が好んで身体を張ったプレイをしたからだ。

「イケメンなのに傷だらけなんだから。」

華音は指でなぞってクスクスと笑った。

「ぷっ……クククっ!」

彬従は笑い出した。

「くすぐったいよ!」

「いっぱい傷がついちゃったね。」

華音はコツンと彬従の頬に頭を寄せた。

「華音に怪我させるなら、俺が傷だらけになった方がマシだ。」

彬従は髪を撫でた。

「私だってアキに傷ついて欲しくない。」

唇を重ね、舌を差し入れ、華音は彬従を求めた。

「やっぱり華音の誕生日に帰る。」

「ダメよ、学校休んじゃ。」

「華音のそばにいたいんだ。」

彬従はキスを繰り返し、華音の胸を弄っていた手を腹部へ滑らせた。

「もっと欲しい……」

「アキってエッチ。」

そう言いながら華音は身体を開いた。

「覚えておいて、俺は華音のものだから。」

華音の太ももを割り、間に自分の身体を押し入れた。

「今も、これからも、俺は華音しか愛さないから……」

彬従の真の意図を華音は理解した。

「いつかアキが他の女の子を抱く日が来るまで、私をアキの腕の中にいさせて……」

彬従の愛撫でずっと押し殺していた感情が溢れ出した。

行為はまだ痛いだけで、喜びには至らなかった。

しかし、交わるたびにうっとりと艶めく表情を浮かべる彬従が愛おしかった。

*
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