業火の果て

□第9章 混乱
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彬従の家に着くなり、華音は祐都と一緒にバタバタと3人分の寝室の準備を整えた。

彬従が家を出てから、弟の季従は華音の家に引き取られた。

父の彬智は勤めている大学近くにマンションを構え、以前から一人で暮らしている。

誰も住まないこの家の中は、時折風通しはするものの、どんよりと澱んでいた。

「遅い!もう駅には着いているはずなのに!」

一段落してお茶を入れ、華音はリビングの時計を睨んだ。

「どこかで飯でも食ってるんじゃない?」

祐都はのんびりお茶をすすった。

するとピンポーンと玄関の呼び鈴がなった。

華音は走って玄関に向かい、勢いよくドアを開けた。

「ただいま!」

笑顔の彬従がいた。

「おかえり!」

華音は飛び付いた。

「遅くなってごめん。柊と飯食ってた。」

「お邪魔します、華音ちゃん。」

「シュウ君も来てくれてありがとう!」

キラキラと華音が目を輝かせた。

「よー久しぶり!」

祐都はニヤニヤしながら彬従を出迎えた。

「なんでお前までいるの!」

小声で彬従は文句を言った。

「華音が一緒に来てって言うからさ。」

彬従の渋い顔を見て、祐都は少し気の毒になった。

買ってきたケーキでささやかにお祝いをした。

華音が選んだ3つのケーキを彬従は平然と平らげた。

「弁当2個とラーメン食べたのによく食えるな!」

柊は呆れた。

「甘い物は別腹でしょ!」

「女子じゃないだろ!」

すかさず祐都がツッコミを入れた。

さすがの彬従も苦しそうに腹をさすった。

「無理して食べなくてもよかったのに…」

華音はしゅんとした。

「華音が俺のために選んだんだ。1つに決められないよ。」

横にいる華音に彬従は微笑みかけた。

「もっとちゃんとパーティーみたいにお祝いしたかったな……」

そっと手を伸ばし頭を撫でた。

「いいよ!アキもヒロトもシュウ君もいてくれるから。」

ニコリと華音は笑った。

だが、彬従はその頬をキュッとつねった。

「痛いっ!」

「シュウは余計だ!」

「俺も入れてくれ。」

ニヤニヤと柊は笑った。

「明日何時まで居られる?アキが帰ってくるって言ったらケイタ達が逢いたがっていたんだ。」

「最終で帰ればいいよ。」

「じゃあ元男バスで集まろう!」

嬉しそうに祐都が言った。

突然、リビングのドアが開いた。

「ここで何をしてるの。」

母の茉莉花が入ってきた。

「華音、今何時だと思ってるの。」

静かな、それでいて背筋の凍るような声だった。

「ごめんなさい、すぐに帰ります。」

「すみません、華音の誕生日のお祝いで集まっていたんです。」

祐都が素早く立ち上がって謝った。

「祐都がいるなら安心だけど……」

茉莉花はため息を吐いた。

「彬従、学校はどうしたの?」

「休みを…もらいました。」

「何のために?」

茉莉花はまた静かに語り掛けた。

「華音の誕生日を祝いに来ました。」

再びこれ見よがしに茉莉花は大きくため息を吐いた。

「華音に手を出さないでと言ったはずよね。」

「俺は……!」

「私がいいと言うまでこの家に戻って来ないでちょうだい。もちろん、華音もあなたの元に行かせはしません。」

「待ってください!俺は誕生日を祝いに来ただけです!」

「私の言うことが聞けないの?」

彬従は口を開くことが出来なかった。

「明日の朝一番の列車で帰りなさい。午後の授業に間に合うでしょ?」

「分かりました…」

うなだれる彬従の腕を華音は思わずぎゅっと掴んだ。

「あなたは?」

柊に気付いた茉莉花が尋ねた。

「初めまして。彬従君の同級生の比江嶋柊です。」

「まあ、彬従に素敵なお友達が出来て良かったわ。」

「彬従君にはいつも楽しませてもらってます。」

嫌みなほどにこやかに柊は微笑んだ。

「片付けをしたらすぐに帰るから、お母さんは先に帰っていて。」

華音が頼むと、茉莉花はふっと眉を寄せた。

「遅くならないうちに戻りなさい。」

そう言うとリビングを出て行った。

「アキ、明日朝一番で帰るのか?」

「茉莉花さまには逆らえないよ。ケイタ達にはごめんって言っといて。」

「仕方ない。冬休みにまた計画しよう。」

祐都は慰めた。



華音は台所に向かった。

「厳しいお母さんなんだね。」

後から柊がついて来た。

「私のこと、心配なのよ。」

「それでヒロトを連れてきたんだ。アキと二人きりでお母さんに怒られないように。」

「……そんなつもりじゃ無いわ。私達は三人とも幼なじみなのよ。」

「無自覚なの?じゃなければ君は相当したたかだね。」

「私はアキを守りたい……それだけよ。」

目を逸らし、カチャカチャと食器を洗い片付け、華音は台所を出て行った。

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