業火の果て

□第10章 再会
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数週間後、祐都は一人で彬従の元を訪れた。

「元気だった?全然来ないからどうしてるかと思った。」

辻が嬉しそうに出迎えた。

「いろいろと忙しくてさ。」

祐都は言い訳した。

「アキは?」

「最近寮には帰ってこないんだ。」

困惑して顔を膨らませた。

「比江嶋の家にいることが多いよ。あいつのいとこと付き合ってるみたいだぞ。写真見たけどすげぇ美人なの。」

「嘘だろ?」

祐都は信じ難かった。

「いいよなぁ、次々彼女が出来てさ!」

「華音のことは何て言ってた?」

「誕生日に逢いに行ったけど、揉めて別れたって言ってたよ。」

暗い気持ちに祐都は捕らわれた。

「お前らどうしたの?あんなに仲良かったのに。俺でよければ相談に乗るぜ!」

「ありがとう、辻…」

メールで寮に来ていることを伝えると、彬従から生徒ラウンジで待っていてくれと返事があった。

彬従は10分ほどしてやってきた。

「どうしたの、連絡も無しに来るなんて。」

「いきなり来たらマズいのか?」

祐都は冷ややかに言い返した。

しばらく二人は無言で向かい合った。

「シュウのいとこと付き合っているの?」

「あいつの家に遊びに行ってる内に仲良くなったんだ。写真見る?」

携帯の待受画面に、彬従と美少女が並んで映っていた。

「茉莉花さまに冬休みも帰ってくるなって言われた。正月はシュウの家に厄介になるよ。」

「華音と逢わなくていいの?」

彬従はフッと笑った。

「茉莉花さまの言う通りにするだけだ。華音以外の女の子ならいくら付き合っても構わないんだからな。」

「アキが嘘ついてるって俺には分かるよ。」

祐都は顔を強ばらせた。

「嘘じゃない。」

「……もう帰る。」

すくっと祐都は立ち上がった。

「二度とここには来ない。」

振り返ることもせず、祐都は出て行った。

「そうだよ嘘だよ。華音に逢えなくて平気なハズ無いだろ…」

祐都に話したいことがある。

一晩掛けて話しても終わらないくらい、聞いて欲しいことが沢山ある。

彬従はうなだれた。

「ヒロトが来たんじゃないのか?」

柊がやってきた。

「もう帰ったよ。」

「あいつに何も言わないの?」

「ヒロトは生真面目だ。茉莉花さまと俺の板挟みになって苦しめてしまうよ。」

「どちらにせよ、傷つけるだけだろ?」

彬従は唇を噛んだ。

「今日もウチに来る?沙良が待ってるよ。」

「分かった、行くよ。」

彬従は立ち上がると、フラフラと柊の後をついて歩いた。



天日の屋敷には、いつの間にか彬従専用の部屋が設けられていた。

寮には持ち込めない専門書を揃え、密かに未来への準備をしていた。

「ケーキ焼いたのよ、食べる?」

沙良がケーキと紅茶を運んできた。

「この前の、アキが気に入ってくれたからアレンジしてまた作ったのよ!」

オレンジの良い匂いが鼻をくすぐった。

「ありがとう!凄く美味いよ。」

「アキが喜んでくれるから作り甲斐があるわ。」

嬉しそうに沙良は微笑んだ。

「どうしたの?元気無いわね。」

彬従は顔を歪めた。

「大事な友達を傷つけてしまった。」

祐都とのやりとりを沙良に話した。

「ヒロトのためにしたことなら後悔する事無い。いつか分かってくれるわ。」

沙良は彬従を胸に抱き締めた。

「懐かしいな。ヘコんでいるといつも華音が俺を抱いて慰めてくれたから……」

「私なら華音の代わりになってもいいのよ。」

「代わりなんかじゃない。」

沙良の顔を引き寄せ、唇を重ねた。

「アキのキス大好き。温かい気持ちになる。」

「俺はビリビリ痺れて自分を抑えるのに苦労するよ。」

彬従は苦笑した。

「我慢しないで抱いてしまえばいいのに。」

沙良は悪戯に微笑んだ。

「それはダメ。」

「華音に義理立てしなくていいじゃない。」

彬従の唇を沙良は貪るように求めた。

甘い匂いに取り込まれる……

このまま飲み込まれてしまえば楽なのか……

彬従はキスを許す自分の弱さを呪った。



リビングで柊を見つけた由良は、腕を掴んだ。

「またアキを連れてきたの?」

「沙良がお待ちかねなんだ。」

「シュウは平気なの?」

「いつものことだろ。」

「アキがいない時、沙良をめちゃくちゃに抱く癖に!」

「沙良が望むからそうしているだけだ。」

柊は口の端を歪めた。

「いつまでも恋愛ごっこして遊んでないで、さっさとヤっちまって孕んで欲しいよ。」

「沙良にアキの子供を身籠もって欲しいって、本気で思ってるの!?」

「そしたら俺はこんな馬鹿げた人生から解放される。」

「最近シュウのことが理解出来ない!」

由良は柊の胸にしがみついた。

「俺は前から何一つ変わってないよ。」

ポンポンと由良の頭を撫で、柊は遠くを見つめた。

*
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