業火の果て

□第11章 惑いの闇
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天日の屋敷に着くと、柊は彬従を車から引きずり出し部屋まで運んだ。

「どこに行ってたの!早く新年会の仕度をして!」

着物姿の沙良が呼びに来た。

「また年が明けたのか。」

「ママがシュウの袴姿を楽しみにしてるのよ!」

由良がはしゃいでいた。

「アキはどうしたの?」

どんよりした彬従を差し、沙良が尋ねた。

「一晩中エッチしまくった挙げ句に彼女に振られて腑抜けになっているんだ。」

沙良と由良は目を合わせた。

「華音と別れたの?」

「俺、余裕無いんでほっといて。」

彬従は丸まったままだった。

「美女が揃っているんだ。目の保養しなよ。」

柊は強引に彬従の顔を起こした。

彬従は双子の着物姿に目を奪われた。

艶やかな深紅の着物が白く滑らかな素肌に似合っていた。

「凄くきれいだね!」

「アキに誉められると嬉しいわ。」

沙良が頬を染めた。

「アキも新年会に連れて行こうぜ。」

「いいわね!袴ならシュウのがあるわ!」

「ちょっと待ってよ!」

「いいから!葵、手伝って!」

「かしこまりました。アキさま、こちらにどうぞ。」

「無理だから!」

彬従は抵抗したが、由良と葵に拉致られた。

柊と沙良は二人きりになった。

「誰と逢ってたの?」

「華音だよ。」

「違うでしょ。」

「俺を信じないの?」

「信じない。」

沙良はすっと歩き出した。

「ママにアキを紹介するわ。」

「何て言うの?」

「彼氏でしょ。」

「本人にOKもらってからにしなよ。」

「必要ない。」

「強気だね。」

柊はフンと鼻で笑った。



袴を着せられ、彬従は天日家の新年会に同行した。

ホテルの大広間に千人近い親族が集っていた。

壇上に沙良と由良姉妹と、母である瑠璃が着席していた。

瑠璃は双子に良く似た若く華やかな美しい女性だった。

近親者の席に招かれ、彬従は柊の横に着席した。

「ここにいるのは天日一族全員なの?」

「血の繋がりの濃いものだけだよ。一族を合わせたらこの地方の半分くらいの人数になる。」

「そんなに多いのか。」

会場を見渡し彬従は驚嘆した。

「瑠璃さまも仕事をしてるの?」

「まさか。天日の当主が働く訳無いよ。財閥の運営は専任の親族の仕事だ。ちなみに俺達の学校もその一つだよ。」

「茉莉花さまとはずいぶん違う……」

どうすれば茉莉花の気に入られるのだろう……

どうすれば、もう逢わないなどと華音から宣告されずに済むのだろう……

彬従はまた自分を責めた。

「あんまり落ち込むな。とりあえず飯食いなよ。腹が減ってるとロクなこと考えないよ。」

柊は目の前の豪華な料理を勧めた。

「お腹すいたぁ!槇のおじ様の話が長いんだもの!」

沙良と由良がパタパタと走ってきて隣りの席に陣取った。

「アキ、ちゃんと食べてる?」

「袴がキツくて飯が入らないよ。」

「だったらタキシードに着替える?」

「七五三じゃないから!」

沙良と掛け合ううちに気分が和らいだ。

「松鹿堂の栗きんとん大好き!食べてみて。」

沙良は箸に乗せ、アーンと彬従の口に運んだ。

「んっ!美味い!」

口に含んだ途端、彬従は顔をほころばせた。

「アキは甘いもの大好きね。」

沙良は嬉しそうに笑った。

「高塔の家のお節料理は全部手作りなんだ。大晦日に毎年手伝った。俺、煮しめを作るの得意だよ。」

懐かしそうに彬従は語った。

「栗きんとんは華音の担当で、俺が手を出すと甘くしすぎるって怒るんだ。」

突然、沙良は彬従の頬をつねった。

「痛いよ沙良!」

「あとでゆっくり話を聞いてあげるから。」

頬を撫で、沙良は微笑みかけた。

「ずいぶん仲良しなのね!」

沙良達の母、瑠璃がやってきた。

「初めまして、吉良彬従です。お嬢さん達にお世話になっています。」

彬従は立ち上がり、瑠璃に頭を下げた。

「礼儀正しいのね。こちらこそ、じゃじゃ馬娘がご迷惑おかけしてないかしら?」

瑠璃はニコリと微笑んだ。

「いえ、素敵なお嬢さん達でクラクラします。」

笑顔で彬従も返した。

「クラクラするのは娘達の方よ。あなたはまるで極上の媚薬のようだもの。」

彬従のあごを品定めするように掴んだ。

「多くの女が惑わされ、あなたを奪い合うでしょうね。」

「ママ!アキは私の彼氏だから手を出しちゃダメ!」

沙良は瑠璃の手を払いのけた。

「珍しいわね、沙良がヤキモキ焼くなんて。」

コロコロと笑うと瑠璃は柊に向かった。

「シュウ、あなたは最近悪戯が過ぎるわ。」

「身に覚えがありませんが?」

「今後あなたの護衛には瑛をつけます。」

「冗談でしょ?瑠璃さまの右腕を何故?」

「自分の胸に聞いてご覧なさい。」

柊の額をツンと指で押し、瑠璃は次のテーブルへ挨拶に行った。

「何をやったの?」

由良が震えた。

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