業火の果て

□第14章 少女達の攻防
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はぁぁと何度目かの深いため息を漏らした。

すると、目の前にコーヒーカップがコトンと置かれた。

「ブラックで良かった?」

祐都がニコリと微笑み掛けた。

「ありがとう。いい加減、企画書に取り掛からなくっちゃ。」

華音は頬を両手でペンペンと叩いた。

「何か悩み事でもあるの?」

自分のコーヒーを一口啜り、祐都は尋ねた。

「もうすぐ一年経つね、アキの学校の学園祭に行ってから……」

「そうだね…」

それぞれの記憶が蘇り、華音と祐都はふと押し黙った。

「俺、辻に誘われているから今年も遊びに行こうと思ってるんだ。」

羨ましそうに視線を震わせる華音に、祐都は思わず苦笑した。

「良かったら一緒に行く?茉莉花さまも日帰りなら許してくれるかもよ。」

「そうかな!?」

華音の心は沸き立った。

「アキには逢えなくてもいい?」

途端に華音はどんよりと落ち込んだ。

いつも冷静な華音が、彬従に関してだけは感情を露わにする。

じりじりと心が妬けるのを祐都は感じた。

「美桜も連れて行ってもいいかな。」

「うん……でもなんで?」

「この前行きたいって言ってたの。慎君と逢いたいのよね。」

祐都は眉を寄せた。

「そんなはずない。だって、マコトは今近くの女子校の子と付き合っているんだ。」

「ホントに?」

「うん、辻に聞いた。夏休み前まではがんばってたけど、遠距離恋愛は無理だって別れたらしい。」

「全然知らなかった…」

「振ったのは美桜の方らしいよ。でも良かったよ、マコトは女癖悪いから。」

―――それなら何故美桜は学園祭に行きたがったの?

母と言い争うほどの理由が華音には思い当たらなかった。



「あなたは飲み込みが早いですね。教え甲斐がありますよ。」

瑛は会社経営学の本をパタンと閉じ微笑んだ。

「瑛さんの教え方が上手いからですよ。」

ノートに走らせていたペンを止め、彬従はニコリと笑顔を返した。

「すぐにでも天日財閥に入って欲しいくらいです。」

瑛の話はいつも冗談かお世辞として聞き流すことにしている。

でなければ、どんどん深みにはまっていく気がするからだ。

「将来は医学部に進む予定ですか?」

「そのつもりです…親が許してくれたら、ですけど。」

そうだ。一度茉莉花と彬智に話をしなければならない。

しかし、理由を尋ねられたら何と答えればいいのだろう。

「ねぇ!いつまで二人きりでいるつもり?」

ガンとドアを開け、沙良がズカズカ入ってきた。

「心配しなくて良いですよ。襲ったりしませんから。」

「アキに手を出したら例え瑛でも許さない!」

「大丈夫です。沙良さまとは男性の趣味は違います。」

ニコリとほほえまれたが、彬従は複雑な心境だった。

「瑛の好みのタイプってどんな人よ?」

沙良は問い質した。

「私、男性には興味ありませんけど。」

彬従にぎょっとされ、慌てた瑛は続けた。

「そう言う意味では無くて、私は天日家が第一なんです。」

「確かに瑛は他に興味が無さそうだわ!」

皮肉を言われても、全く動じない瑛だった。



瑛を追い出すと、沙良は彬従に纏わりついた。

「今週末、学園祭に連れて行ってね。」

「シュウと行くんじゃないの?」

「ヒドい!私はアキの彼女でしょ?」

否定しようとして、彬従は躊躇った。

―――華音は来ないのか……

「分かった。一緒に行くよ。」

喜ぶ沙良を見て、彬従はふと息を呑んだ。

―――これでいいのだろうか……

頭の中を過ぎるのは華音の姿ばかりだ。

抑えられない熱の行き場を彬従は求めた。



学園祭の当日、朝早くにガタガタと物音がした。

華音は目をこすりながら階段を降りていった。

派手なメイクを施した美桜が玄関を出て行く所だった。

「どこに行くの?」

「アキの学園祭よ。」

「お母さんにダメって言われたでしょ?」

「そんなこと聞いていられない。」

「慎君に逢いに行くんじゃないのよね?別れたって聞いたよ。」

「そうよ。」

「じゃあ、何故行くの?」

「決まってるじゃない。」

美桜は低い声で答えた。

「アキにコクりに行くのよ。」

華音は驚いた。

「今までは華音がべったりだったから近づけなかった。でも、華音は彼女になれないんでしょ?」

美桜はキッときつい目をした。

「だったら、私が彼女になる!」

「アキがあんたを相手にする訳ない!」

「華音はお母さんの言いなりになって、ここで留守番していなさいよ!」

美桜は家を飛び出した。

「待って美桜!」

身体の中から血が抜けていくような錯覚に陥った。

自分の部屋に駆け戻り、華音は急いで着替えた。

「アキにコクるなんてどうかしている!」

急いで美桜を止めなければ。

その時、電話が鳴った。

*
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