業火の果て

□第17章 うねる波
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「ねぇ華音、聞きたいことがあるんだけどぉ!」

放課後、同じクラスのさおりに捕まった。

「華音ってぇ、3組の石月君と付き合ってるの?」

「違うよ!」

華音は手をブンブンと横に振った。

「でもぉ!いっつも一緒に帰るじゃない?」

「それはバイトが同じだからよ!ただそれだけ!」

「じゃあ、石月君に彼女がいるか知ってる?」

「今はいないと思う…」

「そぉなんだ!」

さおりは嬉しそうに肩をすくめた。

「私、今度石月君にコクろうと思ってるんだぁ。華音も応援してね!」

「うん、がんばって!」

さおりの後ろ姿を見ながら、華音は思わずため息を吐いた。

「凄いなヒロト!学年の女子人気NO1のさおりにコクられるなんて!」

最近、祐都に関してこの手の話題が増えてきた。

勉強もスポーツも学年のトップクラスの実力がある。

派手さは無いが人好きのする顔立ち。

背も高く、スタイルも良い。

何をさせても卒のない仕事ぶりは、友達や、先輩後輩教師から、更には会社の人達からも常に一目を置かれている。

何より誰とでもすぐに打ち解ける性格の好さが、彼の人気の理由だった。



「お待たせ!」

今日も祐都と一緒に会社に行くことになっていた。

「華音が遅れるなんて珍しいな。」

「ちょっと用事があって…」

「ふーん?」と小首を傾げたが、特に追求はしなかった。

「ヒロトって、今付き合ってる子いる?」

唐突に華音は尋ねた。

「はぁ?いないよ。いたら華音に言ってるよ。」

「じゃあ、好きな子は?」

「……いないよ。」

「正直に言ってよ。」

「本当にいないって。」

「今の言い方、思わせ振りだよ。」

「華音の天然!って、よくアキが言ってたな。」

額をツンとつついて華音をよろけさせると、祐都はスタスタと先を歩いた。

「待ってよぉ!」

華音は後を追った。

「つーか、何だよいきなり?」

「最近、ヒロトにコクりたいって女の子からよく相談を持ち掛けられるのよ。」

「それで?」

「誰か好きな人がいるのかなって……」

「今そんな暇無いでしょ?」

「そうだね……」

華音は思わず祐都の腕を掴んだ。

「いけない!こういうことするから、私が彼女じゃないかって誤解されるんだ!」

慌てて華音は手を離した。

「いいんじゃない?華音が彼女ってことて!」

祐都はアハハと可笑しそうに笑った。

―――俺が誰を好きかなんて、華音には絶対分からないだろうな……

祐都は横を歩く華音を切なく見守った。



風花グループの業務改善プロジェクトは一段落した。

「ミセツさんと逢えなくなるから寂しいね。」

むーっと口を横に結び、華音はしかめ面をした。

「こっそりアキに逢うことも出来なくなるね。」

ニヤッと笑い、祐都は華音の表情をうかがった。

思った通り、真っ赤になった。

「知ってたの?」

「俺の情報網は凄いよ!」

ホテルの従業員とも仲の良い祐都なら当然のことだった。

「今だけでいいってアキは言うんだけど……」

「あいつが簡単に納得するとは思わないけどな。」

「そう……だよね。」

華音はまた祐都の手を握った。

「……あんまり悩まない方がいいよ。明日のことなんか、誰にも分からないんだから。」

「うん……」

指先が微かに震えている。

―――アキのことなんか忘れてしまえばいい……

こみ上げる想いを押し殺し、祐都はぎゅっと握り返した。



深夜になっても、柊はまだ瑛の部屋で資料を読みふけっていた。

風花グループとの合併交渉は中断していた。

「この前の業務改善で、こちらに寝返る予定だった役員が何人も社長サイドに留まってしまったんです。」

「華音達の努力が評価されたのか……」

ふっと笑みを漏らした。

「あなたは何故そんなにも高塔の娘の肩を持つのです?」

ベッドにまき散らされた資料を一つ一つ拾い上げ、瑛は柊を見つめた。

「華音は……大事にしたいと思わせる女なんだ……」

目を逸らし、瑛はうつむいた。

柊は彼女を抱き寄せ唇を重ねた。

「まるでやきもち焼いているみたいだよ。」

身体を合わせ、舌を絡ませながら、胸を弄った。

その愛撫を、瑛はそっと遮った。

「私を10才も年下の男の子に振り回される女にしないでください。」

「俺に遊ばれているつもりなの?」

「柊さまが私を本気で相手にする訳が無いでしょう?」

「本気にさせてみなよ。」

深く舌を差し込み、息を止めるほど強く吸った。

「俺に惹かれる自分を赦してやれよ……」

無言で背中を掴む瑛に、柊はキスを繰り返し、彼女の心が綻びるのを待った。

*
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