業火の果て

□第19章 凍てつく冬
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秋の夜空に満月が映え、中庭を明るく照らしていた。

窓辺から外を眺めていた沙良はふうっとため息を吐いた。

「どーしたのぉ?悩み事なんて沙良らしくない!」

由良がからかった。

いつもは別々に休む姉妹が、由良の部屋で夜遅くまで語り合っていた。

「最近、アキが遊びに来ないんだもの……」

「もうすぐ全国模試だから、寮で勉強するって言ってたじゃない?」

「勉強ならこの家でやればいいのに!」

「誰かさんがじゃれついて、集中出来ないんでしょ?」

「アキが全然構ってくれないからよ!」

ぷうっと頬を膨らませ、沙良は拗ねた。

「アキったら、また華音と逢ってるのよ。週末は地元に帰ってあの子と過ごしている……」

「華音のお母さんに反対されて、別れたんじゃないの?」

「そう言っておきながら、内緒で付き合っているのよ。」

「アキって、誰にでも優しいしチャラいけど、華音には一途よね……」

「……私の入り込む余地、無いのかな?」

クスンとうなだれる沙良を、由良はぎゅっと抱きしめた。

「アキは私を大事にしてくれる……でも、どうやったら彼女になれるか全然分からない……」

「沙良は魅力的よ。自信持ちなさいよ。遠慮しないで今までの男の子みたいに攻めればいいのよ。」

妹の胸にぎゅっと自分を押し込むように沙良は抱きついた。

「ありがとう。なんだか元気が出た!」

姉妹は寄り添い一つのベッドで横になった。

「あのね、瑛に聞いたんだけど、刹那がアキに逢いたがっているそうなの。」

沙良はピクリと眉を動かした。

「何故?」

「前にママが言ってた、アキを天日財閥に入れたいって、そのためかな?」

由良は不機嫌になった。

「私、刹那はキライ。何でも強引に決めてしまうし、ママにベタベタし過ぎだわ!」

「仕方がないわよ。ママの彼氏なんだから。」

沙良もムッと口を尖らせた。

「もし、アキが天日財閥に入ったら、シュウはどうなるの?」

不安そうに由良は沙良の肩に額を押し付けた。

「例え刹那でも手出しはさせない。シュウは私達の大切な家族なんだから。」

沙良は優しく由良の背中を撫でた。



模試が終わって会場を出た途端、彬従は沙良と由良に拉致られて買い物に付き合わされた。

女の子の洋服選びに困惑しながらも、姉妹に大人しく従った。

―――これ、華音に似合いそうだな……

季節を先取りしたお洒落なワンピースを手に取り、顔を弛ませた。

「アキったら何ニヤニヤしてるの?」

由良が取り上げた。

「私にも沙良にも似合わないじゃない?」

「もしかして、華音の?」

「あっ、いや、えーと……」

笑顔を見れば、それが正解だとすぐに分かる。

「ヒドい!私達と一緒にいて、他の女の子の服を選ぶなんて!お詫びに私達の服も選んでよ!」

強引に彬従を引っ張り、由良は店の中を連れ回した。

沙良は彬従が手にしていたワンピースを当て、鏡に向かった。

―――私には全然似合わない……

小柄で可愛い華音が着れば、似合いそうな女の子らしい優しい服だった。

―――アキはこういう可愛い服が好きなのかな……

「沙良、これどう?アキが選んでくれたわよ!素敵じゃない?」

同じワンピースでも、先ほどの服とは正反対の、シャープな印象だ。

しかし、合わせてみると自分にとてもよく似合っている。

「こっちも捨てがたい!」

彬従は手にしたもう一着を沙良に当て、どちらがいいか由良とギャアギャア言い合った。

「アキの好きなのはどんな服?」

「俺?特にこれって言うのは無いなぁ。その子に似合えばいいんじゃない?」

アハハと屈託なく彬従が笑った。

「私、アキの好みの女の子になりたい。」

「沙良は十分好みのタイプだよ。」

「アキってそういうこと平気で言うのがチャラいのよぉ!」

由良につつかれ、また彬従は彼女とギャアギャアじゃれあった。

大きな紙袋いっぱいの洋服を買い込み、沙良達は店を後にした。

「模試はどうだった?」

「まあまあかな。第一志望の大学は前回でA判定もらってるんだ。」

「卒業したら地元に戻ってしまうのね。」

「ああ。」

彬従はふわりと嬉しそうに笑った。

―――アキを華音に渡したくない……

すがりつく沙良に戸惑ったが、彬従はそっと頭を撫でてやった。



「家のことは大丈夫よ、心配しないで!」

電話で華音は母にそう言った。

会社の仕事が忙しく、母の茉莉花は家に帰れない日が続いた。

「詩音に代わってくれる?」

振り返ると、涙目の詩音が季従の後ろに隠れていた。

「詩音、おいで。お母さんにお仕事がんばってって言ってあげて。」

優しく華音は諭した。

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