業火の果て

□第20章 婚姻の契り
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大学のカフェテリアで彬従は立ち止まった。

華音が同じ学部の女の子達とおしゃべりしていた。

呆然と見惚れていると、ふと目があった。

しかし何事も無かったように華音はまた目を逸らす。

ため息を吐き、彬従はカフェテリアを後にした。

大学に入って2ヶ月が過ぎ、華音とすれ違う日々が続いていた。

何故こんなことになったのだろう……

何が原因なのだろう……

あれほど楽しみにしていた大学生活もすっかり色褪せてしまった。



「アキーーー!」

名前を呼ばれ振り向くと、同じ医学部の鳴瀬が駆け寄ってきた。

彼は同じ中学校の出身でもあった。

「アキ、今日ヒマ?飲み会やるんだけど!」

彬従はムッとした。

「悪い。バイトがあるんだ。」

鳴瀬の主催する飲み会はエッチ目的のタチの悪い合コンで有名だった。

「何だよ、付き合い悪いな。今日はヒロトも来るんだ。」

「はぁ?なんでアイツが?」

「飲みたいって言うから誘ったのさ。」

「バイトが終わったら俺も行く。」

「マジで?やったぜ!」

鳴瀬は嬉々として場所を伝えた。



家庭教師のアルバイトが終わり、彬従は指定された店に向かった。

学生が行く安い居酒屋では無く、洒落た高級なバーだった。

「キャー!ホントにアキが来た!」

席に案内されると女の子達が歓声を上げた。

彬従はひきつった笑顔を浮かべた。

「本日の主役はこちらへどうぞ!」

鳴瀬は彬従を女の子達の真ん中に座らせた。

「ヒロトは?」

「アイツもバイト終わってから来るよ。」

鳴瀬や女の子達が勧める酒を断り、彬従はジリジリと待った。

30分ほどして祐都が現れた。

「悪い、遅くなっ……」

そう言いながら視線を席に流し、彬従を見つけてあからさまにギクリとした。

「じゃあ、ヒロトを連れて帰るから。」

立ち上がると彬従は祐都の首に腕を回した。

「おいちょっと待てよ!今日はお前らが来るからって女の子集めたんだぞ!」

「俺はコイツに用があるから来たんだ。」

背後でギャアギャアと鳴瀬が喚き立てたが、彬従は気にせず祐都を引きずり店を出た。



大学から程近いワンルームマンションに彬従は祐都を連れ帰った。

3週間前から一人暮らしを始めたのだ。

「なんでアキがいたの?」

祐都は恐る恐る尋ねた。

「お前が鳴瀬のヤリコンなんかに出るからだ!らしくないことするな!」

「ああ、俺、飲みたかっただけなのに……」

祐都はテーブルに頭を埋めた。

「なんで俺を誘わないんだ。」

「だってアキ飲まないじゃん。」

突然、祐都はニコニコと笑った。

「俺、飲む酒の量ならアキに勝てるな!」

「そんなこと、負けても悔しくないよ。」

彬従は呆れた。

祐都のために買い置きしてある酒を出し、冷蔵庫の中の材料でさっとつまみを作り、祐都の前に並べてやった。

「相変わらず、アキは器用だなぁ!」

祐都は感激した。

「つーか、毎日のように俺んちに来てるくせに、何かあるなら俺に話せよ。」

「あーこのままアキと一緒に住もうかな!」

「やめろ!女の子連れ込めなくなるだろ!」

「そんなことする気なのかよ!」

祐都はガバッと詰め寄った。

「いずれはそんなことにもなるさ。」

彬従はかなり薄めた酒をチビリと舐めた。

「それで、何があったの?」

「俺のゼミに稲村って4年生がいるんだけどさ……」

祐都は濃い目に作った酒をいっきに飲んだ。

「どこかの大企業の重役の息子で、顔よし頭よし性格よしで運動も出来て女の子にモテモテなんだ。」

「嫌味な奴だな。」

「アキだってそうじゃん!」

祐都は思わず突っ込みを入れた。

「そいつがどうしたの?」

「この前ゼミのコンパがあって、俺も華音も行ったんだ。そしたら稲村が突然みんなの居る前で華音に付き合ってくれってコクったんだよ。」

「それで?」

彬従は密かに慌てた。

「稲村は絶対振られるはず無いと思ってたんだろうけどさぁ……」

「だから、華音はどうしたの?」

「みんなの前なのにビシッと振ったんだよ。好きな人がいるって……」

「なんだ良かったな。」

ホッとして、彬従は嬉しそうに笑った。

「つーか、それでなんでお前が落ち込むんだ?」

「稲村が華音に好きな人ってコイツか?って、俺を指差したんだ。」

「華音は何て言った?」

「キッパリ、違うって言われた……」

彬従はゲラゲラ笑い出した。

「笑うなよ!だからアキには言いたくなかったんだ!」

祐都は不貞腐れた。

「その場を誤魔化したかったんじゃない?」

彬従は笑いを堪えた。

「とんだとばっちりだよ。」

祐都はブツブツ文句を言った。

「……華音が好きなのってアキだよな。」

「俺じゃないだろ。」

持っていたグラスをコトンと置いた。

*
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