業火の果て

□第25章 血の絆
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仕事の合間を見つけ、祐都は車を走らせ海辺の街に向かった。

丘の上のカザバナモーターズに着いた。

「いらっしゃいませ!」

店に入ると、柚子葉が現れた。

「あなたは……ヒロト君よね?」

「ユズちゃん、覚えていてくれたんだ。俺、ミセツさんに逢いに来たんだけど……」

祐都は店の中を見回した。

「ミセツさんはホテルカザバナに行ったきりなの。開業したばかりで忙しいから。」

柚子葉が元気なく答えた。

「そうか。向こうに行ってみる。」

礼を言って立ち去ろうとしたが、ふと振り返った。

「何か困ったことはある?俺で良ければ相談に乗るよ。」

柚子葉は祐都を食い入るように見つめた。

「……シュウの連絡先を知っている?」

「うん。でもメールしてもまともに返事がきたことが無いし電話も繋がらないよ。」

「それでもいい!」

携帯電話を取り出し、柚子葉に柊の連絡先を教えた。

「ヒロト君、ありがとう。ミセツさんを守ってあげて!」

柚子葉の願いが祐都の不安を確信に変えた。

「分かった。俺に出来ることは何でもするよ!」

再び車を走らせ祐都は去っていった。

「大丈夫。負けるな。大丈夫。負けるな。」

柚子葉は手に入れた柊のアドレスを睨みつけた。



新しく出来たばかりのホテルカザバナは昔の面影を忠実に再現していた。

フロントで名前を告げ美雪を呼び出してもらうと、10分ほど待たされて彼女が走ってきた。

「ヒロト!久しぶりね!」

「ミセツさん、凄いですね!このホテル、まるで昔のままですよ!」

「シュウ君のおかげなの。」

赤らむ美雪は、初めて出逢った時のように輝いていた。

「桐ヶ谷さんにも良くしてもらったわ。ヒロトが頼んでくれたおかげよ!」

「貞春さんが珍しくやる気でしたからね。」

自分が楽しいと思うことには全力を出す貞春だった。

「ユズちゃんが心配してたけど、何かあったんですか?」

「優介が里穂を連れて実家に帰ってしまったの……」

美雪は暗くうつむいた。

「私が悪いんだ……ホテルに夢中になって里穂をほったらかしにしていたから……ユズにも迷惑掛けたわ。」

「そうだったんですか。」

祐都は美雪の細い手を掴んだ。

「優介さんならきっと分かってくれますよ。大丈夫、元気出してください!」

「ありがとう!」

涙を拭い、美雪は祐都に笑顔を見せた。



彬従と瑛は就業時間が終わった後いつまでもパソコンに向かい話し込んでいた。

何を相談しているのか、華音には一切分からなかった。

先に一人マンションに帰り、華音はベッドでゴロゴロと転がりながら彬従の帰りを待った。

深夜になってやっと彼は帰ってきた。

「おかえり。」

「遅くなってごめん。明日の朝早いんだから先に寝ていていいのに。」

「アキがいないと眠れない……」

スーツ姿の彬従に華音は抱きついた。

「そんな可愛いことするとエッチしたくなる。」

「ダメよ。寝不足になるとヒロトに怒られるから。」

「ヒロトの言うことなんか聞かなくていい。」

彬従は唇を重ねた。

「ねぇ、瑛さんと何の話をしていたの?」

「普通に仕事の話だよ。」

「でも、二人で貞春さんと連絡を取り合っているでしょ?」

「桐ヶ谷商事の仕事じゃないよ。別件で相談に乗ってもらってるんだ。」

「何かは教えてくれないの?」

「華音が心配する事は何もないから。」

彬従はニコリと笑った。

「瑛さんって、キレイな人よね。」

「ヤキモチ妬いてるの?華音の方がずっとキレイだよ。」

「もう!アキってズルい!」

彬従は華音のパジャマも下着もあっという間に脱がせていった。

「俺が華音のことしか考えてないって分からせてやるよ。」

「……寝不足になってもいいわ。」

「大丈夫。明日の朝はバッチリ目の覚めるような特別美味いコーヒーを淹れてあげる。」

彬従はスーツを脱ぎ捨て、華音に身体を重ねた。



ホテルカザバナの客足は伸び悩んだ。

他に幾つものホテルが建設されていて、宿泊客の奪い合いは熾烈だった。

美雪は経営に必死になり、優介との溝はますます深まっていった。



カザバナモーターズは、柚子葉に全て任された。

慣れない仕事に苦労しながら美雪のために懸命に働いた。

しかし、美雪がいなくなってからはメンテナンスを依頼する客も減り、店は赤字が続いていた。

海を見ながらぼんやりしていると、来客を知らせるチャイムが鳴った。

「いらっしゃいませ!」

柚子葉は慌てて店に飛び出した。

ドキリとして身体が強張った。

「ここで買ったバイクの点検をお願いしたい。」

背の高い男はそう言った。

「まだこのバイクに乗っていたの。」

「そうだよ。柚子葉を乗せた大切なバイクなんだから。」

柊は微笑んだ。

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