天狼の彼方
□第6章 帰郷
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面会時間が終わる午後6時より少し前、あの子は全速力で病室に走ってくる。
来るなりその日あった出来事を機関銃のようにまくし立てる。
当日の担当看護士がユナちゃんやヒロミちゃんだと時間を過ぎても大丈夫だが、小池さんだとキッチリ6時で帰されるんだと、もうすっかりこの病院に馴染んでいる。
あの子が来るのが待ち遠しい…
顔も声も、残念なくらい自分とそっくりだ。
しかし、優しい心遣いが、母の華音を思い出させる。
温かく柔らかな頬も、愛しい記憶を蘇らせる。
今日も耳をすまして聞こえてくる足音を待った。
しかし、いつもより早い時間に足音が響いた。
ゆっくりとした革靴の音…
ガラガラとドアが開いた。
「よぉ。具合はどうだ。」
比江嶋柊がやってきた。
「なんだお前か。」
あからさまに落胆し、吉良彬従はため息を吐いた。
「なんだよ。そんなにがっかりするな。」
呆れながら、柊はパイプ椅子に座った。
「少しは動けるようになったのか?」
「いや…ユウタがしばらくは大人しくしてろって。」
「そうか。あとで大神と話してみるよ。」
布団を引き上げ、彬従にかけ直してやった。
*