天狼の彼方
□第19章 新しい命
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天日財閥本社の最上階は、当主の執務室となっている。
長年ここは、祖母・天日瑠璃のものだった。
しかし母、沙良の不慮の死で当主の座を彬従に譲り、この部屋を去った。
今は、会長職に復帰した父・吉良彬従の仕事場になっていた。
「父さん、まだ帰らないの?」
天日彬従は執務室を訪れた。
父は窓辺に佇み、ぼんやり外を眺めていた。
「ああ、夜空を眺めていた…星が綺麗に見えるな。」
ニコリと息子に微笑んだ。
背の高いスラリとした姿態…
良く通る低い声…
はっきりと印象的な目鼻立ち…
自分に似てはいるものの、彬従はまた父に見惚れた。
「瑠璃ちゃんも良く俺と星を眺めていたよ。」
彬従も夜空を見上げた。
「青い星があって、それが俺の星だって言うんだ。シリウスって星らしい。」
「瑠璃さまは意外とロマンチストなんだな。」
父がクスクスと笑った。
「瑠璃ちゃんにその星の話を教えたのはシュウらしいよ。」
「ますます意外だ。」
可笑しそうにまた笑った。
「俺が天日の狼、だからだって。」
「狼ねぇ…俺には甘えん坊の子猫のようだ。」
くりくりと息子の頭を撫でた。
*