山田センパイ
□第15章 ヴァージンロード
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「そんな理由で会社の人事が変更されることが無いくらい、社会人なら分かるだろう?」
人事部長の平田が幼い子供を宥めるように言った。
「今度のプロジェクトには社運が掛かっているんだ。山田君は当社の業務に精通している。彼女なら染谷と共にプロジェクトを成功に導ける。」
島津も声を荒げて諭した。
「他にも数名を派遣する。中には遠距離恋愛せざるを得ない者もいるだろう。会社の命令っていうのはそう言うもんだ。」
「分かってます……分かってます……だけど俺は美弥子と離れて暮らすつもりはありません。」
拳を震わせうつむく翔平の両脇をエリカとシホが支えた。
「美弥子ちゃん…君の気持ちはどうなんだね?」
優しく染谷は尋ねた。
「私は会社の決定に従います…」
虚ろな眼差しで美弥子は答えた。
理がぎゅっと美弥子の手を握りしめた。
「たった一年間だ。時間ならすぐに経つ。すまないが辛抱してくれ。」
ホッと安堵の息を吐き、島津はドカッと椅子に座り込んだ。
「……ごめんなさい。」
やっと聞こえるような小さな声で美弥子は訴えた。
「ごめんなさい、染谷さん、島津部長、平田部長、私は中国には行けません。」
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