不機嫌なドルチェ
□第1章 シャルロット・オ・ポワール
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蔦の絡まる赤いレンガのお洒落な洋館の二階奥。
洋菓子メーカー『SAMIZO』の商品企画室のデスクに座り、私はダンダンとドアの向こうから響いてくる荒々しい足音にドキッとした。
これはきっと御曹司……
じゃなくて、28才にして専務取締役兼商品企画室室長、つまり私の上司、佐溝惣一郎さんですよ!
一気にピリピリと背筋に緊張が走る!
「ありんこはいるかっ!」
ドアが開いた瞬間に低い唸り声が事務所に轟く。
「はいぃ!」
私は慌てて立ち上がった。
ちなみに『ありんこ』は配属されてから御曹司が私を呼ぶ時のアダ名なの。
有岡みさとって親からもらった名前があるんですけどね!
御曹司はツカツカと私の前にやって来た。
広い胸が目の前にそびえて、ドキドキと見上げると威圧感バツグンなイケメン顔。
アーモンドみたいな形の大きな目をギロリと向けられ私は硬直する。
うわぁーっ!今日も一段と機嫌が悪そう…
「何度言ったら分かるんだ!新人研修のレポート提出の期限が過ぎてるぞ!」
「えっ?昨日ちゃんと出しました!」
「研修部には届いていないんだが。」
「ええっ?社内郵便に乗せました!」
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