不機嫌なドルチェ
□Side Story…蜜の味(和香×フミ)
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『パティスリー・ジュリエット』の厨房、深夜2時。
「和香、先に寝てなよ。朝早いんだろ?」
史信は背中を向けたまま、生クリームを泡立て続けます。
「いいの、出来上がりが気になるんだもの。」
熱い厨房でタンクトップにトランクス、タオルを頭に巻く姿は、『スイーツの王子様』とマスコミにもてはやされている『浅生史信』とは思えません。
「全く、オジさんは俺を信用してねーのかな。」
社長の鶴の一声で、私と惣一郎は朝一の重役会議に試作品を急遽提出することになったのです。
おかげで史信は昨日の夕方から『ルレ・マロン』の制作に掛かり切り。
出来に納得いかないらしく、これが5回目の正直です。
「イベントでも粗利が出るような商品にしろって、そーちゃんパパに散々言われているのよ。」
「俺は聞いてないぜ?」
「文句は言うけど、出来るだけフミの好きにさせるんだって、そーちゃんがいつもパパと戦っているからよ。」
「さすがそーちゃん!大好き!」
史信は、私や惣一郎より2才年下です。
初めて出逢ったのは私が中学一年生の時。
街はずれに新しく出来たケーキ屋さんが美味しいと友達に聞き、お店を訪ねました。
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