業火の果て

□第1章 キスの境界線
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華音と祐都に責められ、さすがの彬従もがっくりした。

「アキはもっとしっかりしてよ。少しはヒロトを見習って!」

恵夢がもたれかかると、祐都は赤くなった。

「お前らイチャイチャすんな。」

彬従が呆れ顔で突っ込んだ。

祐都と恵夢は部活をきっかけに1年生の夏から付き合っているのだ。

「アキと華音も付き合えばいいのに!」

恵夢が肘でツンとつついた。

プッと華音は吹き出した。

「イヤよー!アキみたいなチャラ男は!」

「俺はチャラ男じゃないから。」

彬従は言い返した。

「付き合うとかあり得ない。幼なじみだもん!」

隣にいる恵夢が、突然華音の腕をぎゅっと掴んだ。

華音はその手をそっと握り返した。



中学校の近くで皆と別れ、華音と彬従は並んで川沿いの道を歩いた。

やがて大きな屋敷に着いた。

この地方に代々続く名家である高塔家、華音の家だ。

同じ敷地内の左手にあるやや小振りの屋敷が吉良家、彬従の家だった。

二人は生まれた頃からずっと一緒に育ってきたのだ。

「遅くなってごめん。茉莉花さまに怒られない?」

「大丈夫、お母さんには連絡はしてあるから。」

時計は10時を過ぎていた。

「帰る前にキスして。約束しただろ?」

彬従は目を閉じ、顔を突き出した。

「恥ずかしいからみんなの前でキスしようって言わないで。」

「しないの?」

片目を開けて彬従は拗ねた顔をした。

「アキ、この前1年生の子にキスしたでしょ?」

「突然してくださいって言われてしたよ。」

「その子が勘違いしてアキの彼女になったって言いふらしてたの。」

「でもほっぺただぜ?」

「どこでも一緒よ。それで瑞穂達が怒ってその子を呼び出してシメてたの。」

「女は怖いなぁ。」

華音はイラッとした。

「それから、陽菜に付き合ってって言われて断ったでしょ?」

「うん、振られるの23回目だって言われたよ。懲りないよね、あいつ。」

「あと、演劇部だった高橋先輩とデートしたでしょ?」

「ハンバーガーおごってもらっただけだぜ。ヒロトもケイタも一緒にいたよ。」

「そのお礼にキスしたの?」

「してって言われたんだ。」

「のん気なこと言わないで!アキのチャラい行動のせいで女の子達に血の雨が降るんだからね!」

「つーか、なんで俺の行動がお前に筒抜けなの。」

「…わざわざ教えてくれる子達がいるからよ。」

「華音が俺を彼氏にすればいいだけだろ?」

「ダメよ、アキはみんなのものなの!」

「周りの奴なんか関係無い。」

彬従は華音の頬に手を当てた。

「最近変だよ。すぐにキスしたがる…」

呆れながらも背伸びをして華音は唇を重ねた。

「柔らかくて気持ちイイ。」

後ろに回した手に力を入れ、彬従は固く抱き締めた。

「んんっ!」

華音は慌てて顔を逸らした。

「舌入れないで!」

「ダメ?」

「エッチだよ!」

「言っとくけど、俺は他の女と付き合う気は無いからな。」

彬従はまた唇を重ねた。

キスはますます深くなった。

「華音!帰っているの?」

母の茉莉花が家から出てきた。

華音は慌てて彬従を引き離した。

「アキちゃん、いくらあなたが一緒でも、もう少し早く華音を帰してちょうだい。」

茉莉花が静かに叱りつけた。

「すみません。」

おとなしく彬従は謝った。

「ごめんなさい、今帰ります。」

母の元に走り寄り、華音はふと振り返った。

「やっぱりヤスの話は断って、来週もアキの応援に行くね。」

「そうしてよ。」

ニコリと笑って歩き出した彬従が、突然足を止めた。

視線の先に、彬従の父の車があった。

「アキ…」

「分かってる。」

スラリとした彬従の背中が凍りついていた。



家に戻り着替えを済ませた頃、案の定彬従の怒鳴り声が聞こえた。

華音は合鍵をつかみ、急いで隣の屋敷に向かった。

勝手口から入り、彬従の元には立ち寄らず、階段を駆け上がった。

部屋に入ると、ベッドの上に毛布の小さな山があった。

「トキ、私よ。」

華音は毛布の山を抱きしめた。

「華音ちゃん…!」

中から泣きながら季従(ときつぐ)が現れた。

まだ2才の、年の離れた彬従の弟だ。

「大丈夫、怖くないよ。」

華音が抱きしめると、季従はしゃくりあげて泣き出した。

「トキ、ごめん。」

いつの間にか、彬従が部屋にいた。

「おじ様とケンカしないで。トキが悲しむから。」

華音が見上げると、彬従は顔を歪めて立ち尽くしていた。

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