業火の果て

□第2章 違えられた未来
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「ふぇぇ、まるでドラマみたいだねぇ。高塔のかーちゃん切れ者って感じだな。」

彬従はうつむいたままうなずいた。

「俺もヒロトも高塔の人間だ。将来は一族のものとして高塔家と華音を守っていくんだ。」

「アキって見た目爽やかな好青年なのに、中身はかなり複雑だよねぇ。」

緑川はポンと肩を叩いた。

「もし本当に県外に進学することになったら、学校選びは俺も手伝ってやるよ。」

「サンキューミドりん!」

「お前らそのミドりん言うの止めろ!俺は担任だぞ!」

「そういやミドりんって先生だったな!」

彬従はわざと明るく笑った。



体育館に戻ると、すでに練習は始まっていた。

テキパキと部員に指示を出す祐都を彬従はぼんやりと眺めた。

「戻ってきたなら練習しなよ!」

バンと背中を恵夢に叩かれた。

「ミドりんの話、何だった?」

「進路調査票にデタラメ書いたら、華音のお母さんを呼び出されて怒られた。」

「華音のママがなんで来るの?」

「俺んち母親がいないから、茉莉花さまが親代わりなんだ。親父は学校に絶対来ないから…」

「どうだった?茉莉花さまが来てたらしいな。」

祐都が心配そうにやってきた。

「俺、県外の高校に行かされるかもしれない。」

彬従はうなだれ、茉莉花の話をした。

「やっぱりこの前のアレがバレたんじゃない?」

「何よその話?」

「こいつ、華音に誘われて一晩一緒に寝たんだよ。」

「華音って意外と大胆ね!」

「母親なら可愛い娘のそばにケダモノを置いておきたくないだろ。」

「ケダモノじゃねぇよ!第一ヤってないんだぜ。」

「お前が何もしてないハズないだろ?」

「…華音が目を覚ます前に、ちょっと胸を触っただけだよ…マジ生殺しだったんだけど。」

真っ赤になる彬従を見て、祐都はゲラゲラ笑った。

「華音、危機一髪じゃん。そんなことしてるから追い出されるのよ!」

「茉莉花さまに釘刺されただけだろ?同じ高校に行けるさ!」

のん気な祐都と恵夢と話し、彬従はホッとした。



部活が終わり自転車置き場に行くと、華音が待っていた。

「今日、お母さんがアキと面談しに来たってホント?」

心配そうに華音が尋ねた。

「進路のことでね。榎倉が呼び出したんだ。」

「何か言われた?」

「バカなことして怒られただけだよ。心配すんな。」

グリグリと華音の頭を撫でた。

後ろの荷台に華音を乗せ、彬従は家に向かった。

背中に触れる柔らかな感触が、彬従の胸を熱く震わせた。

「お母さん、ホントに何も言ってなかった?」

「別に…だから気にするなって。」

彬従は誤魔化した。

「ねぇアキ、私とずっと一緒にいてね。」

「当たり前だよ。高校も大学もその先も、俺は華音とずっと一緒だよ。」

広い背中に頬を押し付け、腰に回した腕で華音はぎゅっと彬従に抱きついた。



家に着いても、二人は離れ難く佇んだ。

「キスしていい?」

彬従は華音の長い髪に指を通した。

「アキって最近そればっかり。」

「華音を見てるとキスしたくなる…」

「いいよ。」

彬従を見上げて、華音は目を閉じた。

柔らかな唇に触れると、彬従は夢中になって何度も愛撫した。

「華音…俺のこと、彼氏にして。」

「ダメ。」

細い腕を絡め、華音も彬従を抱き寄せた。

「俺は他の女なんか興味無いよ。」

「アキはダメ。みんなのものだから。」

そう言いながら、華音は彬従の口に舌を差し入れ自ら絡めた。

身体中を熱い鼓動が駆け巡る。

華音を抱く手を背中から腰に滑らせた。

「どこまでならいい?」

「キスまでに決まってるでしょ。」

華音は彬従の手をそっと制した。

「アキ……アキ……どこにも行かないで。」

「お前こそ茉莉花さまに何か言われてるんじゃないのか?」

彬従はグイと華音を引き離した。

「何のこと?」

キョトンとして華音は彬従を見上げた。

「遅くなるから帰ろう…」

目を逸らし、彬従はやっと華音から離れた。

「着替えたら夕ご飯食べに来てね。練習が大変なんだから、前みたいにウチでご飯食べてよ。」

「分かった。すぐに行くよ。」

ニコリと笑って背を向けると、彬従は自分の家に入っていった。

「アキ……ごめんねアキ……」

華音はぎゅっと胸元を掴んだ。



放課後、華音は教室の窓からぼんやりと外を眺めた。

数日前から、下腹部の鈍い痛みが続いている。

生理の時の痛みに似ているが、それよりもじんわり身体の奥を締め付ける。

「華音どうしたの?顔色が悪いよ。」

クラスメイトの理沙と満里奈が声を掛けてきた。

「アレのせいかな?お腹痛くって。」

「鎮痛剤持ってるよ。飲む?」

「大丈夫…だと思う。」

*
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