業火の果て

□第3章 暗闇の中の光
2ページ/5ページ


鳴瀬は近くにあった椅子を蹴り飛ばした。

「迷惑だから、アキが華音と付き合えよっ!」

華音と彬従はお互いに凍りついたように動かなかった。

「鳴瀬、悪いな、アキと華音は連れて行くから。」

祐都がポンポンと彬従を叩いた。

「いいけど、ドアはお前らが直せよなぁ!榎倉にバレたら部活停止にさせられるぞ!」

「マジかよ!明日直しに来る!」

祐都と彬従は慌てて顔を見合わせた。



彬従達はサッカー部の部室を後にした。

華音は彬従にしがみついたままだった。

「一人で鳴瀬に会いに行くなんて、バカなことすんな!アイツはヤリ捨てヤロウなんだぞ!」

華音はウルウルと泣き出した。

「アイツに何かされた!?」

「キスされたっ!」

華音はセーターの袖で必死に唇をこすった。

その仕草が可愛くて、彬従は笑った。

「キスだけで良かったよ。」

「良くないよ!好きじゃないのにキスするなんて!」

「鳴瀬のキスなんか、俺が忘れさせてやる。」

彬従は両手で華音の頬を包み込み、唇を重ねた。

華音も腕を回して彬従の唇に答えた。

「お邪魔そうだから俺は先に帰るぞー。」

祐都は呆れた。

「悪いっ!」

彬従は顔を上げ、ウィンクして見送った。

久しぶりに見る彬従の笑顔を、祐都は不安げに見守った。



雪の残る川沿いの道を、華音は彬従に手を引かれて歩いた。

大きくて力強い手に、華音は動揺した。

「ごめんねアキ。」

彬従はクシャリと華音の頭を撫でた。

「もう忘れなよ。俺が守ってやるから。」

華音は彬従と向き合った。

「アキ、私はアキとは付き合えない。」

「分かってる…」

華音はふらふらと歩き離れた。

「私は高塔家の跡継ぎなの。」

ふわりと振り返って、彬従を見つめた。

「アキは私と関わらない方がいい。」

「何言ってるんだよ!」

彬従はダッと駆け寄った。

「何があっても俺はお前を守るよ!」

震える華音の全てを包み込むように、彬従は抱き締めた。

「ダメ。」

ドンと彬従は突き放された。

「ダメだよ!」

華音の涙が足元を濡らした。

「私のことなんて守らなくていい!」

「華音のバカヤロウ!」

彬従は吐き捨てるように怒鳴ると、華音を残し走り出した。



溢れかえるチョコレートの山を見て、彬従はため息を吐いた。

その日はバレンタインデーだった。

「すげーな!デカい紙袋3つ分か。俺なんか義理チョコ5つだけなのに。」

啓太が愚痴った。

「俺はメグにもらった本命チョコ1個で幸せ。」

「お前だってチョコもらいまくりのくせに!メグにバラすぞ!」

啓太はボコボコと祐都を殴った。

「アキ、菜月先輩に逢ってないの?」

「日曜日に逢うよ…」

「先輩のこと弄んでるんじゃねーぞ。」

「そんなことしてないから…」

彬従は口ごもった。



高塔の屋敷にチョコレートの山を持って行くと、詩音と季従は大騒ぎした。

「手作りでしかも凝った物ばっかりね!全部本命なんだ。」

中身を取り出し美桜はバリバリと対抗心を燃やした。

「これは私から!他のと混ぜないでね!」

同じように凝ったチョコを彬従の手に押し付けた。

「詩音もアキにあげる!」

「ありがとう!嬉しいよ!」

二人にもらったチョコを見て、彬従は眉を寄せた。

「華音はチョコ作ってた?」

「昨日みんなで一緒に作ったよ。でも友チョコだけだって。」

「友チョコでもいいから俺にもくれよ。」

台所に行くと、華音がいた。

「どうしたの?何怒ってるの。」

「お前からチョコもらったってヤスに見せびらかされたよ…」

「吹奏楽部の女子全員から男子に配ったのよ。ヤスに渡したのは私だけど。」

「なんだそうなのか!」

「個人的にヤスにあげる訳無いでしょ。」

「じゃあ俺のは?」

「彼女のいる人にはあげない。」

彬従はしゅんとした。

「嘘よ!アキはケーキの方が好きでしょ?今から食べようね。」

冷蔵庫からケーキを取り出しニコリと微笑んだ。

「すげーうれしい!」

「アキって変なの!」

華音はケラケラと笑った。

「先週、具合悪かったんだって?」

「大丈夫。ちょっとお腹が痛かったの。心配しなくて良いからね。」

彬従はまっすぐ華音を見つめた。

手を伸ばし頬を挟むと、唇を求めて背を丸めた。

「彼女のいる人とはキスしない…」

華音は人差し指で彬従の唇を押さえた。

「片付け任せちゃってごめんね!今日はこれで帰るわ。」

家政婦の涼花がドアを開けてニコリとした。

「お疲れ様!洗い物はやっておきますから。」

「……茉莉花さまが帰って来たわよ。」

チラリと二人に目配せした。

*
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ