業火の果て
□第4章 別離
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「終わったなぁ、これで引退か。」
いつものように打ち上げを終えた帰り道、彬従が呟いた。
「まだ全然実感無いよ。」
祐都がうなずいた。
「ミドりんはマジ名監督だったな。もっと早く監督やってもらいたかった。」
「応援に来てる子達も緑川ファンが増えたよ。授業中とギャップが有りすぎだよね!」
華音が笑った。
「確かに!あれくらい真面目に授業も教えたらいいのに!」
釣られて祐都も笑った。
「私もミドりんに惚れそうだったよ!」
恵夢が祐都の腕を取った。
「マジかよ!」
祐都が慌てた。
「あーもっとバスケしてぇ!」
彬従が吠えるように叫んだ。
「俺もバスケしてぇ!」
祐都も真似をした。
夕闇の迫る街を四人でじゃれ合いながらいつまでも去りがたく歩き続けた。
祐都と恵夢と別れ、彬従と二人で華音は帰った。
「アキ、最後まで泣かなかったね。」
「ミドりんのせいで泣きそびれたよ。」
彬従は少し不満そうだった。
「去年キャプテンだったシンゴ先輩も最後の試合の後で泣かなかったんだ。なんでだろうって不思議だったけど、同じ立場になって初めて先輩の気持ちが分かった気がする…」
「シンゴさん、今でも女子に人気あるよ。」
「見た目だけじゃなくてプレイも凄くカッコ良かったんだ。」
彬従が珍しく熱のこもった声で語った。
「先輩とまたバスケしたいよ。」
華音は足を止めた。
「……だからシンゴさんと同じ学校に行くの?」
「茉莉花さまに聞いた?」
彬従は振り返った。
「うん。」
華音はうなずいた。
「あの学校はバスケも強いけど、進学校としても全国屈指で有名なんだ。何よりミドりんの母校だからね。」
彬従はふわりと笑った。
「いっぱい勉強して高塔家の役に立つ人間になるよ。」
「お母さんは許したのね。」
華音は彬従の広い背中をつかみ、頭をコツンと押しつけ、後ろから抱きしめた。
「私やヒロトと一緒にいてくれないの?」
「部活も終わったし、受験勉強が大変になる前にみんなで遊びに行こう。華音が行きたがってた映画でもいいよ。」
彬従は平静を装った。
―――ごめん。高塔家のためなんて嘘だ。
華音の手は小さく震えていた。
―――俺はお前を手に入れるために家を出るんだ。
静かに泣く華音を背にしたまま、彬従は重ねた手をぎゅっと握りしめた。
「部活が無いってつまらない。」
恵夢がだらりと身体を投げ出した。
「メグ、そろそろ気合い入れなよ。」
華音は容赦なく言い放った。
「受験勉強がんばらないと、ヒロトと同じ高校に行けないよ!」
更に煽り立ててみた。
「ヒロトや華音達と同じレベルの高校に行くなんて絶対無理っ!」
更にグダグダになり恵夢は嘆いた。
「ヒロトに勉強みてもらえば?」
「あいつ最近冷たいもん!アキとばっかりベタベタしてるから。」
恵夢はぶぅと唇を突き出した。
「アキと別々の高校に行くから、今のうち一緒にいたいのね。」
「何それ?聞いてないよ!」
恵夢は立ち上がった。
「えっ?とっくにアキが話してると思った。」
華音は焦った。
「どういうことよ!」
華音の手を掴むと、恵夢は隣の教室まで引きずっていった。
「アキ!県外の高校に行くってホントなの?」
突然の襲撃に彬従は慌てた。
「ごめん、メグに話してなくて。」
「なんで教えてくれないの!」
「だって絶対反対するだろ?」
「当たり前よ!ヒロトも華音も反対しなかったの?」
祐都はちらりと華音を見た。
「アキが決めたことなら、俺は応援するよ。」
「華音はいいの!?」
「アキが高塔家のために決めたことだから……」
華音は眉を寄せた。
「高校に行っても4人でいたかったのに!」
「俺だって、正直嫌だよ。」
祐都がため息混じりに言った。
「つーか、俺達に何の相談も無しでさ。たまたまミドりんと話している所に通りかかって初めて知ったんだ。」
穏やかだった祐都が急に顔を赤くした。
「マジで友達か?…あーっなんかめちゃくちゃ腹立ってきたっ!」
「落ち着けよヒロト!」
「アキはそう言っていっつも俺を蔑ろにするんだよ!」
「県外って言っても列車で2時間あれば帰ってこれるし、長い休みは戻ってくるから!」
「今まで毎日当たり前に会ってた仲なんだぞ!」
「アキは地元の高校に行かないの?寂しいじゃん!」
祐都がぎゃあぎゃあと文句を言い、それを彬従がなだめ、周りの友達がはやし立て、教室は大騒ぎになった。
華音は騒ぎの輪をそっと抜け出した。
「ごめん、ヒロトが暴走しちゃって。」
恵夢が後を追い掛けてきた。
「メグやヒロトが羨ましい。自分の気持ちを真っ直ぐ伝えられて。」
ふっと華音の顔が暗くなった。
「アキに好きだってちゃんと言いなよ!」
*