業火の果て

□第5章 開幕
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「聞いてよアキ!ヒロトったら交通費稼ぎたいからってバイトばっかりして、私と遊んでくれないんだよ!」

「バイトの前に逢ってるだろ。」

「それじゃ足りないよ!学校だって別々なのに!」

突っかかる恵夢を相手にせず、祐都はのほほんとしていた。

「確かにストーカーだよなぁ。ほぼ毎週末俺と一緒にいるよ。」

彬従も呆れた。

「ヒロトは俺の友達みんな知り合いだし、寮監の先生とも仲良しで今日も先に訪寮許可証もらってるし、ある意味さすがヒロトだよ。」

またいつものようにクスクス笑った。

「ヒロトもこの学校に来れば良かったな。シンゴ先輩が勘違いしてヒロトの部屋はどこ?って聞いてたよ。それにマジでバスケ部に入れたがってたから。」

「今からでも編入出来る?」

祐都は真剣に尋ねた。

「辞めてよっ!」

恵夢は本気で反対した。



最寄りのバス停から数分の所に、鉄筋4階建ての古びた寮はあった。

男子高校生ばかり500人が寝食を共にしていた。

「アキはここにいるんだね!」

華音は目を輝かせた。

「男4人部屋でむさ苦しいよ。」

彬従は苦笑いした。

「ホントに汚いから!」

祐都が訳知り顔で答えた。

「お前が言うな!」

そう言いながら彬従は楽しげだった。



寮監の先生に挨拶し、彬従の部屋に行くと10人ほどの男子が興味深々で待ち構えていた。

「君、アキの彼女?それともヒロトの方?」

華音は男子達に囲まれて思わず動揺した。

「私はただの幼なじみです!ヒロトの彼女はメグです!」

「アキとヒロトがお世話になってます!」

恵夢はここぞとばかりに愛想を振りまき、あっという間にその場に馴染んだ。

「さすがメグ。」

華音は羨ましく思った。

彬従の友達はみんな彼に似て気さくで飾らない少年達で、話をしているうちに次第に華音も慣れてきた。

「アキ…」

華音はもじもじと彬従の袖を引っ張った。

「トイレどこ?」

「女子用は1階の玄関のそばだよ。」

「行ってくる。」

「ついていこうか?この寮広いから迷子になるよ。」

「大丈夫。」

華音は一人部屋を出た。



用を済ませ戻ろうとすると、やはりどこへ行けばいいのか分からなくなった。

「せっかくだから探検しよう!」

華音は歩き出した。

1階には大きな食堂や風呂場や生徒ラウンジがあった。

ここで暮らす彬従の姿を想像して、華音は微笑んだ。

「男子寮に女の子がいるなんて珍しいね。」

華音は驚いて振り向いた。

彬従と同じ制服を着た少年が一人、ニコリと笑い掛けてきた。

精悍な彬従とは正反対のタイプだ。

背は高くほっそりと痩せていて、透き通るような白い肌に薄茶色のサラサラの髪、そしてアイドルタレントのような華やかな顔立ちをしていた。

―――王子様ってこんな感じ?

思わず華音は見とれた。

「友達の所に遊びに来たんです。」

「友達って、もしかしてアキ?」

「そうです。知り合いですか?」

「直接は知らないけどね。」

少年は微笑み、小さな声で「ビンゴ!」と言った。

「こんな所で何してるの?」

「迷子になっちゃって。」

華音は戸惑った。

「案内するよ。何号室?」

「237号室よ。」

「237号室のアキね。」

意味ありげに少年は繰り返した。

彬従の部屋にはすぐに着いた。

「ありがとう、助かりました。」

「どういたしまして。」

少年はまたニコリとした。

「ねぇ。」

突然声を殺して囁いた。

「君って可愛いね。」

「えっ?」

すっと華音を壁に押し付け、少年は顔を近づけてきた。

「気をつけないと喰われちゃうよ。」

華音は慌てて顔を逸らした。

少年の唇が頬に軽くチュッと触れた。

「さすがにいきなりは襲わないから。」

耳元で囁いた。

「俺のいとこが君のアキに一目惚れしたって伝えておいて。」

去っていく少年の後ろ姿を華音は呆然と見送った。

「華音…?」

振り返ると彬従が立っていた。

「遅いから心配したよ。どうしたの?」

「知らない人にいきなりキスされた。」

華音は自分の頬を指差した。

「どんな奴!?」

彬従は苛立った。

「背が高くて色白で、ヴァイオリン持たせたら似合いそうな子。アキと同じ色の学年章をつけてた。」

「そんな奴、寮にいたか?」

「それより、その人のいとこがアキに一目惚れしたって伝えてって言われたよ。」

華音は彬従にしがみついた。

見上げると、彬従は真っ赤になっていた。

「華音達を待っている間に駅で女の子に声をかけられたんだ。その子のいとこがこの学校にいるって言ってたから、そいつかな。」

「何かあったの?」

「話をしただけだよ。」

「綺麗な人だった?」

「興味無いよ、華音以外の女の子なんか…」

「でも、一目惚れしたって…」

「俺が好きなのは華音だけだ。」

*
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