業火の果て

□第5章 開幕
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彬従は華音の頬をゴシゴシと擦った。

「俺じゃない奴に簡単にキスさせるなよ。」

「ごめんねアキ。」

胸の中の華音をぎゅっと抱き締めた。

「身体はもう大丈夫?」

「平気よ。前みたいに倒れたりしない。」

背伸びをして彬従の頭を抱き寄せ、華音は唇を重ねた。

「アキ。」

「ん?」

「アキ。アキ。アキ!」

名前を呼びながら、彬従を自分の胸に押し込めるかのようにじたばたした。

「ちょっと待った!俺そんなに小さくなれないから!」

彬従は笑い出した。

「お前は全然変わらないな。俺、今日どんな顔で逢えばいいかずっと悩んでたのに。」

「私はアキにいっぱいキスしようと思ってたよ!」

華音は思い切り彬従に頬ずりした。

「今、この学校に来たこと物凄く後悔してる。華音がそばにいるだけでこんなに幸せなのに…」

「せっかく素敵な高校に入ったんだから、ちゃんと勉強して高塔家の役に立つようにがんばって!」

「かしこまりました、次期当主さま。」

彬従は立ち上がり、華音を胸に抱き締めた。

「私は明日から夏休みの間ずっとお母さんの会社で研修を受けるの。二学期になったらお昼は学校で夜は会社の研修になるんだ。」

「そんな…あんまり無理するなよ。」

「大丈夫。だから今日は日帰りなの。ヒロトがお母さんに絶対帰ってくるように念を押されちゃって…お泊まりしたかったメグとケンカになって大変だったんだ。」

「あいつら何気に危機だな。」

「原因はほとんどアキなのにのん気よね。」

華音は祐都と恵夢が気の毒になった。

「9月に学園祭があるから、その時は泊まりで来てよ。そしたらいっぱい遊ぼう。」

「その日は絶対お休みもらうわ。」

「辛いことがあったらいつでも言いなよ。すぐに帰って抱っこしてやるから。」

「うん。待ってるね…」

華音は顔を上げ目を閉じた。

両手で華音の頬を包み、唇を重ねると、彬従は何度も華音を愛おしんだ。



「あいつがアキか。」

少し離れた所から二人の様子をうかがっていた柊は、ふんと鼻を鳴らした。

「確かに沙良の気に入りそうな顔してるけど、チャラそうな奴だな。あいつのどこが良かったんだろう。」

そして華音に目を移した。

「名前を聞けば良かった。また逢えるかな。」

華音の柔らかな頬の感触を思い出した。

「あの子は俺を呪縛から解放してくれるんだろうか…」

柊はぎゅっと拳を握りしめた。



彬従とは昼過ぎに別れ、市内の観光スポットを巡り、夕方になって帰り道に着いた。

列車に乗ると、祐都に寄り掛かり、恵夢は真っ先に眠ってしまった。

「はしゃぎ疲れて眠くなったかな。」

祐都は恵夢の頭をそっと撫でた。

「ごめんね、私に付き合わせて日帰りにして。ヒロト達はお泊まりで良かったのに。」

向かい側の席で、華音は謝った。

「いいんだ。」

祐都はチラリと華音を見た。

「メグに言ってないんだけど、実は俺も明日から華音と同じ研修を受けるんだ。」

華音は驚いた。

「今度の旅行のこと、茉莉花さまに許可をもらう時に、ファミレスでバイトしてるならウチで働きなさいって言われたんだ。給料もかなり出してもらえるし、休みは華音より多くもらえる。」

「メグに言わなくていいの?」

「怒るだろうな、夏休み遊べなくて…」

「ヒロトはまだ会社に関わらなくてもいいんじゃない?」

「いや、出来ることなら俺も早く仕事に馴染みたい。華音の力になれるように。」

「ありがとう。でもメグとの時間も大切にしてね。」

「華音…俺迷っているんだ。このままメグと付き合っていていいのか。」

「メグが嫌いになったの?」

「まさか。今日だって初めて逢ったアキの友達に物怖じしないし、誰とでもすぐに仲良くなれる。自分の意見ははっきり言うけど優しい所は忘れない。ちょっと暴走気味な時もあるけど…」

恵夢の頭を撫でながら、照れたように笑った。

「俺はメグがすげぇ好き。」

「じゃあ悩むこと無いよ。」

「でも、いつかアキのように一族のために他の女の子と結婚しろって言われたら…」

「そんなこと、私がさせない。」

華音はきっぱりと言った。

「高塔家も変わっていかなければならない。今のままでは弱体化するだけ。他の財閥に攻められたら勝ち目が無い。」

「…親父から聞いてるよ。今高塔の会社は経営が苦しいって…」

「そうなの…だから、早くお母さんを助けてあげられるようになりたいの。一人であんな大きな会社を支えているんだもの。」

「華音はやっぱり俺達とは違うな。高塔家を背負う覚悟のせいかな。」

祐都はフッと顔を赤らめた。

「俺に出来ることは何でも言って。アキの代わりにはなれないけど…」

「ありがとうヒロト。その気持ちだけでも十分嬉しい…」

*
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