業火の果て

□第6章 遭遇
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「ヴァイオリンは分からんけど、色白で女みたいな顔してるよ。」

「そいつだ。」

彬従はため息を吐いた。

「比江嶋がどうした?」

渡邉も気になるようだった。

「とりあえず一発殴りたい。」

「穏やかじゃないなぁ。」

辻達は顔を見合わせた。



彬従は部屋を出て、生徒ラウンジでじりじりと連絡を待った。

しばらくして携帯が震えた。

「アキ、怒ってる?」

恐る恐る華音が尋ねた。

「怒ってないから何があったか説明して。」

「研修から帰ってきたらシュウ君が家の前で待ってて、ちょっと話してメアドとケー番交換して帰った。」

「そいつの連絡先、あとで俺にメールして。話があるから。」

「ケンカしないで。」

「なんで!?」

「だって……私に逢いたかったって言ってたの…同じ境遇だねって…可愛かったって…」

華音の声は甘くうわずっていた。

「可愛いなら、俺が何回でも言ってやるから!」

彬従はぐっと怒りをこらえた。

「迂闊なことはするなよ。」

「分かった。」

「それから俺に他の男の話なんかするなっ!」

彬従はまたガンと電話を切った。



柊は月明かりの下で途方に暮れていた。

「カッコつけないで、あのまま泊めてもらえば良かったなぁ…」

その時携帯電話が鳴った。

登録されていない番号に柊は首を傾げた。

「俺が誰か分かる?」

「さあね?」

「アキだ。吉良彬従だ。」

「俺のケー番、華音に聞いたのか。」

「そこで何してる。」

「華音に逢いに来ただけ。彼女可愛いな。」

「あいつに手を出したら殺すから。」

「いきなり怖いね。」

柊はフフッと笑った。

「大丈夫。そんなことしたら俺のお姫様に先に殺される。」

彬従はハッとした。

「俺が駅で逢ったあの子?」

「沙良は華音みたいに穏やかじゃないよ。アキも気をつけて、襲われないように。」

「わざわざ逢ってどうするつもり?」

「誤解されるようなことして悪かったよ。俺、思いついたらすぐ行動に出ちゃうんだ。もう一度逢いたかっただけだよ。」

「逢いたかったってこと自体意味分かんないだろ?」

「ちょっと話してすぐ帰るつもりだった。同じ旧家の生まれの子がどんなかなと思ってさ。」

彬従は思わず混乱する頭を押さえた。

「ところで、川沿いの道をまっすぐ来て中学校の近くの大通りにいるんだけど、ここからどうやって駅に行けばいい?」

のほほんとした口調で柊が尋ねた。

「その辺じゃタクシーも通らないよ。歩いたら1時間くらい掛かるし、暗いと迷う。」

彬従はふーっと息を吐いた。

「今来た道を戻って華音の家の左隣りの屋敷に行けよ。玄関の鉢植えの右から2個目の下に鍵がある。俺の家、誰もいないから泊まっていいよ。」

「アキって好い奴だね。」

柊は嬉しそうに礼を言った。

「鍵は元に戻しておいて。弟のために置いてあるんだ。華音に見つかる前に帰れよ。」

「了解!」

「華音にだけは手を出すなよ。」

―――何やってるんだ俺は。

彬従は頭を抱えた。



「昨日何かあったの?華音がめちゃくちゃ落ち込んでるけど。」

次の日の夜、祐都から電話があった。

「華音はなんて言ってる?」

「アキを怒らせたって、それだけなんだ。」

彬従は昨夜の出来事を祐都に説明した。

「そうか。これから帰りが遅くなる時は俺が送って行くことにするから、アキは心配するなよ。」

「うぅっ」と彬従は唸った。

「アキ……」

祐都に代わって華音が電話に出た。

「ごめんねアキ。」

心細げな声に彬従はクラクラした。

「俺も怒鳴って悪かったよ。」

少し迷ってから、彬従は口を開いた。

「あのあと比江嶋と電話で話したんだ。そんなに悪い奴でも無さそうだった。」

「そうなの?」

華音の声がパァッと明るくなった。

「あいつが好きなのか?」

彬従はイライラした。

「違うわよ。話が聞きたかっただけ。」

華音はきっぱりと言い放った。

「シュウ君の家はどんな一族なのか?構成は?経営は?後継者はどう育てているか?聞きたい。参考にしたい。」

「華音の頭の中は、高塔の家のことだけなんだな…」

彬従はため息を吐いた。

「今の話、代わりに俺が聞いておく。」

「いいよ。私が聞きたいの。」

「ダメだ!華音はあいつに関わるな!メールも電話も拒否しなよ!」

「なんでアキにそんなこと決められなきゃいけないの!」

「自分の彼女が他の男と付き合うなんて許せないだろ!」

「アキは彼氏じゃないよ!」

電話の向こうで華音と祐都が揉め合う声がした。

「アキ、華音には俺から話してみるから!」

気の毒そうな気配が漂ってきた。

「とりあえず、あんまりヘコむなよ。」

プチっと電話は切られた。

「一回寝たくらいで彼氏ヅラ出来ないことくらい分かってるよ…」

*
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