業火の果て

□第7章 宴の夜
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「私、アキを探してきます!」

華音は走り出した。

「なんでバラすの?せっかく足止めしてたのに。」

柊はムッとした。

「シュウは平気なの?沙良が他の子と付き合っても?」

「どうってことないさ。沙良にとって、俺はただのおもちゃだから。」

「そんなこと言わないで!」

由良は顔を歪めた。

「ヤバいことにならないように、様子を見てくるよ。」

ポケットに手を突っ込み、柊は歩き出した。



近くの模擬店で冷たいペットボトルのお茶を買った。

「華音大丈夫かな。」

混雑した中を連れ回すのが心配になった。

突然、トントンと肩を叩かれた。

彬従が振り返ると、そこには以前駅で出逢った美少女がいた。

「また逢えたわね!」

沙良が嬉しそうに言った。

「偶然だね!君も遊びに来たんだ。」

「いとこのシュウに連れてきてもらったの。」

「ああ……シュウもいるのか。」

彬従は露骨に嫌な顔をした。

「シュウが迷惑掛けたみたいでごめんね。あの子考え無しに行動しちゃうのよ。」

「そうだね。」

「ねぇ少し私と話す時間あるかな?」

沙良はニコリと微笑みかけた。

「いや、人を待たせてるから…」

「あの写真の彼女?」

「そうだよ。」

「付き合っているの?」

「今のところは幼なじみだけど…」

「じゃあ、私にも彼女になるチャンスがあるのね?」

沙良は彬従と目を合わせた。

色素の薄い青みがかった茶色の瞳が、射抜くように彬従を捕らえた。

「あなたと逢えてホントに嬉しい。」

彬従の首に手を回し、顔をゆっくり近づけてきた。

ビリビリと身体が痺れるのを彬従は感じた。

「悪いけど、俺、好きな子がいるんだ。」

グイッと力を込めて彬従は沙良を止めた。

「意志が強いのね。私に逆らえる人は初めてよ。」

沙良はあっさりと身を退いた。

「あなたとはちゃんと付き合いたい。」

「友達としてならね。」

「キスしてくれる?」

沙良は目を閉じた。

彬従は頬に手を掛け、唇を重ねた。

身体の芯が更に痺れ、甘い欲望に駆られた。

―――ヤバいな、この子は。

「何してるのよアキっ!」

突然、背中を叩かれた。

「あっ、華音!」

華音が真っ赤な顔で怒っていた。

「あなたが華音ね。ちょっとアキを借りちゃった!」

沙良は悪びれもせず微笑みかけた。

「あなたが沙良さん?」

「沙良でいいわよ。良かったら友達になって!」

沙良はニコリと微笑み、華音の手を握りしめた。

―――この人、アキに本気なんだ……

華音はゾクリと震えた。

「よぉ、無事で良かったな、アキ。」

皮肉な笑みを浮かべながら柊が現れた。

「俺のお姫様に喰われたかと思った。」

「俺には彼女がいるからね。」

彬従は華音を抱き寄せ、笑いながらにらみ返した。

「残念ながら、振られちゃった。」

沙良は柊に寄り添った。

二人の放つ華やかなオーラに華音は圧倒された。

「またね、華音。」

柊は華音の頬に唇を近づけた。

とっさに彬従が間に入った。

「華音に手を出すな。」

「分かった。お前のいない時にする。」

柊は沙良の肩を抱き、並んで歩き去った。

ガクッと力が抜けて華音は座り込みそうになった。

彬従がさっとその身を支えた。

「怖かった?」

彬従は頭を撫でた。

「怖くない。むしろ素敵だった。沙良は凄く魅力的な女の子ね。」

「そうだな。」

身体がまだ痺れていることは、華音に言えなかった。

「なんでキスしてたの?」

「してって言われた。」

「誰とでもすぐにキスしないで。」

「華音の彼氏になったらしない。」

「嘘ばっかり。」

「もうみんなのアキでなくていいだろ?華音だけのものにして。」

「絶対ダメ。」

彬従はまた華音の頭を撫でた。

「外は暑いから、校舎の中を回ろう。」

「…アキのこと、彼氏にしたら、ホントに誰ともキスしない?」

「約束する。」

「じゃあ考えておく。」

「今すぐ彼氏にしてくれなきゃダメ。」

「やっぱり辞めた!」

「華音はズルいよ。」

「…ヒロトとメグ、どうしてるかな。」

華音はうつむいたまま、彬従の手を取り歩き出した。

彬従はふっと笑って、華音の手を握り返した。



祐都達には何故か連絡がつかなかった。

「おかしいな。ヒロトはともかくメグが電話もメールもしてこないなんて。」

「私達のこと忘れるくらい仲良くしてるのかも。」

華音はアハハと笑った。

夕方になり、彬従と華音は宿泊するホテルに向かった。

そこにも祐都と恵夢の姿は無く、ロビーで待つことにした。

「ヒロト達が来る前に、華音にこれを渡しておくよ。」

彬従はリボンの掛かった小さな箱を差し出した。

中にはネックレスが入っていた。

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