業火の果て

□第8章 雄蜂
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「抱いて、いっぱい抱いて……」

彬従の愛撫に合わせ、華音は何度も甘く悶えた。



ホテルで朝食を取り荷造りしてチェックアウトの手続きをとった。

祐都と恵夢の間に流れる微妙な空気に、彬従は眉を寄せた。

「会社の人達にお土産買っていこうと思うんだけどいいかな?」

華音が祐都に話し掛けた。

「そうだね、お世話になってるから。」

祐都は頷いた。

二人が土産物コーナーであれこれ選んでいる間、彬従と恵夢は並んでベンチに座っていた。

「どうだった、ヒロトとの初めての夜は?」

彬従はニヤリとしながら尋ねた。

「いきなり直球?てかなんで初めてって知ってるのよ!」

恵夢は赤くなった。

「ヤってれば、とっくにヒロトが話してる。」

彬従はまたニヤリとした。

「私、ウザかったかなぁ?」

「上手く行かなかったの?」

「ちゃんと最後までしてくれたよ。でも、私が願っていたのと違ってた。」

恵夢はため息を吐いた。

「私ね、アキがしたみたいにお姫様抱っこして欲しかった。」

「ヒロトのキャラじゃないだろ?あんなクサいことするの。」

「自分がやっといてクサいとか言うな!」

恵夢は笑った。

「心配しなくていいよ。ヒロトはメグに惚れてるから。」

彬従は恵夢の頭を撫でた。

「アキ、私ね、最近思うんだ。ヒロトの《好き》と私の《好き》は違うって。」

目をつぶり、彬従に寄り掛かり、恵夢は語った。

「高校に入ってから逢えない時間が増えたのに、空いた時間をヒロトはアキに逢うために使ってしまう。ヒロトが私を好きでいて大事にしてくれるのは分かる。分かるけど……」

恵夢の目から涙がこぼれた。

「ヒロトの一番じゃないのは切ないよ……」

「ごめん、俺のせいだ。俺が華音のこととか高塔の家のこととか全部丸投げしてきたから。生真面目なヒロトが必要以上に頑張るの分かっていたのに……」

「そんなことない。」

恵夢は彬従の手を取り握りしめた。

「ヒロトも華音もみんながそう思ってることだけど、アキがそばにいないことが凄く寂しい。メールや電話じゃダメなの。逢って顔を見ながら、頭を撫でてもらいながら、アキと話がしたいの。」

「ごめん……本当に。」

今まで自分のいた世界が、音を立てずに崩れていく。

―――家を出たのは間違いだったのか…

彬従は恵夢の肩を抱き、繋がれた手を握り返した。



小さなバッグに二泊三日程の荷物を詰めて、彬従は駅に向かった。

学園祭から1週間経ち、明日華音が16才の誕生日を迎える。

学校には「法事のため」と理由を提出したのに、友達には「彼女の誕生日を祝うため」の帰郷だとバレて、散々冷やかされた。

授業の後からでは到着が夜遅くなるものの、1秒でも早く帰りたかった。

切符を買おうと券売機に向かった時、突然後ろから手が伸びてきた。

「俺の分も買ってよ。」

色白の背の高い男がニコニコしながら立っていた。

「なんでお前がいるの。」

彬従は冷たく言い放った。

「華音の誕生日を祝いに帰るんだろ?俺もお祝いしたい。」

「来なくていいよ。」

「冷たいなぁ。弁当2個買ったから二人で食べようよ。」

「お前が2個食べればいいだろ。」

「友達なんだからいいじゃん?」

「女の子を張り倒すような奴は友達じゃない。」

彬従の態度は頑としていた。

柊は諦めなかった。

「そう言わないで、一緒に行こう。」

勝手に彬従の隣の席を確保した。

「フラフラしていて大丈夫なのか?誰かに狙われたりしないのか?」

「そう言うこともあるかもね?」

柊はフフッと嘲笑った。

彬従の携帯電話が震えた。

華音からだった。

「もしもし?今から列車に乗るから。」

「分かった!アキの家でヒロトと待ってるね!」

彬従は唖然とした。

―――誕生日を二人きりで祝おうって気は無いのか?

「華音?俺も一緒だからね!」

柊が顔をすり寄せ、彬従の携帯に話し掛けた。

「シュウ君?また逢えるのね!」

華音の声色が一段跳ね上がった。

「アキと華音の誕生日お祝いしに行くから。」

「嬉しいわ!」

「なんで嬉しいんだよ!」

携帯の向こう側で明らかに戸惑う華音の呟きが聞こえた。

「じゃあな。」

彬従はイライラと電話を切った。

「どうしてお前みたいな奴がいいんだ?」

「それはお互い様だろ?」

柊は座席に深く埋もれてブスッとした。

「沙良も今まではストーカーまがいの真似をするような奴じゃなかった。護衛も付けずに独りで行動なんかしなかった。」

フーッと息を吐いた。

「アキに狂わされているとしか思えない。」

「そんな魅力が俺にあるとは思えないけどな。」

「自覚が無い分ムカつくね。」

「だったら、なんでわざわざついて来るんだよ!」

彬従は柊に詰め寄った。

*
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